月曜日の朝。花は重い足取りで家を出る支度をしていた。罅の入った鏡の前で髪の毛を括り、制服の皺を整える。
小さく、呟く。休めるものなら休みたい。今日は何をされるのだろうか。
祖母の仏壇に手を合わせる。
――――行ってきます
学校に着くと、いつものように周りからクスクスと笑い声が聞こえた。花が虐められていることは何となく知られているようで、他クラスにも花に話しかける人はいない。
しかし、問題が起こったのは昼休みだった。
二人に呼ばれ、花はゆらりと立ち上がる。午前中は何もなかったので、完全に油断していた。
床に押し倒された花は比奈を見上げた。その傍らで、美礼はスマホを構えている。
状況が飲み込めない花の前に、比奈がしゃがみこむ。
思わず素っ頓狂な声が出た。
比奈はニヤリと笑う。自分のスマホを操作し、花の前に掲げて見せた。そこには、見覚えのある家が写った写真が表示されている。いや、見覚えも何も、紛れもなく正臣の家だ。
比奈が、写真の中に写っている窓の所を指差す。その窓は風呂場の窓だった。画質が悪いのでよく見えないが、人の裸体のようだ。
画面をスワイプしながら比奈が嗤った。花が黙ったまま微動だにせずにいると、比奈が花の胸ぐらを掴んだ。
花にしか聴こえない声で、比奈が囁いた。
制服のリボンに手をかけた比奈に、花は必死に抵抗する。その時、いつの間にか姿が見えなくなっていた美礼がトイレに駆け込んできた。
焦った声の美礼に、比奈は舌打ちをした。
捨て台詞を残し、美礼を連れて比奈はトイレを出ていく。後には呆然とした花が一人、取り残された。
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。