第4話

125
2018/10/30 14:38
山崎 佳寿(やまざきかず)
山崎 佳寿(やまざきかず)
ちょ、もういいって…
髪ボサボサになるから…
滝沢 蒼弥(たきざわそうや)
滝沢 蒼弥(たきざわそうや)
あっそお。
滝沢の手が頭の上から離れた。
やっぱり、私はこんな言い方しかできない。
あの日からずっとそうだ。

滝沢のことを好きだと気づいてしまってから…



















滝沢 蒼弥(たきざわそうや)
滝沢 蒼弥(たきざわそうや)
もう、泣くなよ。
山崎は笑ってないと山崎じゃねえんだから。
じゃあ、と軽く手を挙げて部室に帰って行った。
こういうことをさらっと言うもんだから、初めは、軽い男なのかもしれないと思っていた。
でも、実際はそうじゃなかった。

言葉はきついし、いわゆるクールみたいなところもあるけど、誰よりも優しいこと。
練習も、授業もダラダラしてるけど、実は陰で努力してることも知ってる。




ゆっくり歩いていく滝沢の背中は、あのときより、広くて、逞しくて、男らしくなっていた。
なんだか、きゅっと、胸が締め付けられた。






























手洗い場の向かいの教室は、私が滝沢を好きになった場所だ。

今でもまだ、思い出しては、
泣きそうになって、
それから、幸せを感じて微笑む。







1年の時、私はパートのメンバーと大喧嘩をした。
私だけが1人になって、教室に取り残された。
理由は忘れてしまったけど、滝沢はたまたま私がいた教室に入ってきた。

泣いてる私に何も言わず、ただずっと、そばにいてくれた。
それから、気づけば目で追っていた。

2年経った、今でも────










































赤坂 斗真(あかさかとうま)
赤坂 斗真(あかさかとうま)
山崎?美術部、どうなった?
後ろから斗真がやってきた。
背が高い斗真の声はいつも私の頭の上から降ってくる。
山崎 佳寿(やまざきかず)
山崎 佳寿(やまざきかず)
仲のいいあの二人に任せてきた。
ごめんね、勝手なことして。
あんまり生徒会に顔出せてないから偉そうなこと言えないし…
赤坂 斗真(あかさかとうま)
赤坂 斗真(あかさかとうま)
いいよ、いいよ。
俺は早く太田が素直になればいいのにって思ってるわけだし。
山崎 佳寿(やまざきかず)
山崎 佳寿(やまざきかず)
だよね、私も思う。
まだ私は斗真を振り向けない。
だって、きっとまだ顔が赤いから。
滝沢に触れられた頭がツンとした。
赤坂 斗真(あかさかとうま)
赤坂 斗真(あかさかとうま)
ま、俺もなんだけどさ!
そう言って斗真は私の正面にまわって笑った。

私には斗真のこの言葉の意味が分かる。
斗真は、私のことが好きなんだ、きっと。
友達として、じゃなく。

直接言われたわけじゃない。
でも、私は勘が働く方だ。
斗真と過ごす時間が増えるにつれ、予想から確信になってゆく。

でも…
私は、滝沢が好きだ。
決して振り向いてくれなくても…
ずっと。









そして私は、今日も
斗真の気持ちに気付かないフリをする────

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