斗真はうなずいた。目を逸らして、眉毛までもさがってしまっていた。
斗真は黙って、ひとつ、息をついた。
真っ直ぐに見つめられて、言葉が出なかった。
見たことの無い表情は、男らしくて、とても友達として一緒にいるときの顔じゃなかった。
私は静かに、でも、大きく頷いた。
あのとき、自分でも、どういう気持ちでいたか、わからない。
意外、とほぼ息だけになってしまった言葉が二人の間を通り抜けた。
斗真はそれ以上何も話さなかった。
私の家の前に着くまでは。
斗真からこんな質問をされるなんて思ってもみなかった。
まさか、気付かれてる?
何も言えなくて下を向くと、
じゃあ、質問変える
と、斗真が小さい声で呟いた。
首を横にふろうと思って顔を上げると
はぐらかすな、とでも言うようにまっすぐ見つめられた。
ごめん、の言葉はだんだん落ちていって、
足元にインクを落としたみたいに広がった。
斗真は微笑んでじゃあな、と言った。
中学に入って、先生に注意されてから直したはずの、ポケットに手を突っ込む癖が出ていた。
斗真の背中を追って、なにか言った気がする。
きっと斗真には聞こえていないだろうし、
自分でも覚えていない。
でも、もういつものように笑ってくれないかもしれない、というのは私の考えの中に、
あった。
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。