第7話

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2018/11/03 07:40
桜井 つぼみ(さくらいつぼみ)
桜井 つぼみ(さくらいつぼみ)
佳寿先輩、私、滝沢先輩に告白します。
引退間近になったある日の帰り際、つぼみちゃんは私を呼び止めて、そう告げた。
山崎 佳寿(やまざきかず)
山崎 佳寿(やまざきかず)
え、なんで…私に、それ、いうの?
桜井 つぼみ(さくらいつぼみ)
桜井 つぼみ(さくらいつぼみ)
先輩、好きなんですよね。
誰を、とは言わなかった。
首を横に振れば楽なはずなのに、
体が言う事を聞かなかった。

足が、震えた。
桜井 つぼみ(さくらいつぼみ)
桜井 つぼみ(さくらいつぼみ)
先輩だからって、遠慮しませんからね。
優しい声でこの言葉を言うものだから
余計に心臓の音が大きく、早くなっていく。


つぼみちゃんはとっくに私に背を向けたのに
私の足は帰り道に向かなかった。

まだ季節は秋なのに、背中が冷えていった。







滝沢 蒼弥(たきざわそうや)
滝沢 蒼弥(たきざわそうや)
おつかれ、山崎、なにしてんの?
山崎 佳寿(やまざきかず)
山崎 佳寿(やまざきかず)
おつかれ。いつもより出てくるの遅いじゃん。
滝沢 蒼弥(たきざわそうや)
滝沢 蒼弥(たきざわそうや)
まあ、な。
滝沢がちらっと横を見た。
きっと、つぼみちゃんの背中は視界に入っただろう。


山崎 佳寿(やまざきかず)
山崎 佳寿(やまざきかず)
滝沢ってさ、好きな子、いないの?

言おうと思って言った言葉じゃない。

自然と、勝手に言葉が口から走るように出てきた。

滝沢 蒼弥(たきざわそうや)
滝沢 蒼弥(たきざわそうや)
言わねえよ。お前は?
こんな話をするのは、初めてだ。
一体どんな顔をするものかと見上げてみれば、
予想に反する顔をしていた。




いつも無表情なのに、顔を赤くして、そっぽを向いた。

意外すぎて言葉が出なかった。

滝沢 蒼弥(たきざわそうや)
滝沢 蒼弥(たきざわそうや)
おい、こっち見んなよ。
てか、いねえの?
無性に距離が近づいた気がして、嬉しくなった。

思いっきり、自然に笑えてしまった。
山崎 佳寿(やまざきかず)
山崎 佳寿(やまざきかず)
ないしょ!滝沢も言わないんなら、おあいこでしょ?
滝沢 蒼弥(たきざわそうや)
滝沢 蒼弥(たきざわそうや)
そうだな。

滝沢も、笑った。
山崎 佳寿(やまざきかず)
山崎 佳寿(やまざきかず)
いつか、教えてあげる。
じゃあね。
滝沢に背中を向けて歩き出した。



何歩か歩いて足を止めた。
振り返ると、まだ滝沢がいた。

彼は顔の横で1度だけ手の平を広げてから後ろを向いて歩き出した。



いつもの帰り道が明るく見えた。
胸の内がぎゅっとすぼまって苦しかったけど、泣きそうなくらいうれしかった。

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