第17話

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2018/11/06 16:17






引退の切なさの余韻が残った音楽室から、
下校時刻に催促されたように追い出された。
荷物の多かった私は、音楽室をあとにしたのが部員の中では最後だった。

改めて見回すと、思い出が甦ってきて、鼻の奥がツンとした。
もう、誰もいなくなった部屋に私だけの声が響いた。
山崎 佳寿(やまざきかず)
山崎 佳寿(やまざきかず)
今まで…ありがとうございました。
さようなら。




































校門を出ると、吹奏楽部の人だかりがいくつかできていた。

中にはつぼみちゃんを中心に話を盛り上げているグループもあった。きっと、さっきの告白の話だろう。

パートの後輩に一声かけてから、花菜のところに行こうとした。
すると、山崎、という声とともにカバンが引っ張られた。
滝沢 蒼弥(たきざわそうや)
滝沢 蒼弥(たきざわそうや)
帰ろう。
山崎 佳寿(やまざきかず)
山崎 佳寿(やまざきかず)
え?
滝沢 蒼弥(たきざわそうや)
滝沢 蒼弥(たきざわそうや)
誘ってんだけど。
私と滝沢の家は正反対なのに、と言うと、送るから、と言ってくれた。

みんな、自分たちの話に夢中になってくれていたのが幸いで、私たちが一緒にいることを誰も気づかなかった。
もしかしたら、つぼみちゃんは気づいていたかもしれないけれど…












坂を下る足が進むにつれて、時間が過ぎるのが止まればいいのにという気持ちが強くなった。
隣に並んだ滝沢を見上げると、なんでもないような顔をされたから、切なかった。
山崎 佳寿(やまざきかず)
山崎 佳寿(やまざきかず)
つぼみちゃんに、何言われたの?
実はずっと気になっていた。
心の奥底で、ざわざわしていた。
滝沢 蒼弥(たきざわそうや)
滝沢 蒼弥(たきざわそうや)
告白、された。
…んだと思う。
思う、って、何…と笑うつもりでいたのに、
顔が動かなかった。
その代わり、口だけで言った。
山崎 佳寿(やまざきかず)
山崎 佳寿(やまざきかず)
付き合うの?

怖かった。
滝沢の反応を見るのも、知って、あとで涙を流すのも怖かった。
滝沢は黙って首を横に振った。
滝沢 蒼弥(たきざわそうや)
滝沢 蒼弥(たきざわそうや)
俺、好きな人いるから。
安心してしまった。
ひどいと思うけど、素直にほっとした。
滝沢 蒼弥(たきざわそうや)
滝沢 蒼弥(たきざわそうや)
返事は今度でって言われたけど、俺、どうすりゃあいいんだよ、って…思うわけ。
肩にかけたカバンを1度上に投げて胸で受け止めた。 

私は何も言えなかった。
荷物で重くなった腕が、また、ずしりと軋んだ。


私の家が、もう、目の前にあった。

別れなくちゃいけない。
きっと、これがもう、最後だ。

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