引退の切なさの余韻が残った音楽室から、
下校時刻に催促されたように追い出された。
荷物の多かった私は、音楽室をあとにしたのが部員の中では最後だった。
改めて見回すと、思い出が甦ってきて、鼻の奥がツンとした。
もう、誰もいなくなった部屋に私だけの声が響いた。
校門を出ると、吹奏楽部の人だかりがいくつかできていた。
中にはつぼみちゃんを中心に話を盛り上げているグループもあった。きっと、さっきの告白の話だろう。
パートの後輩に一声かけてから、花菜のところに行こうとした。
すると、山崎、という声とともにカバンが引っ張られた。
私と滝沢の家は正反対なのに、と言うと、送るから、と言ってくれた。
みんな、自分たちの話に夢中になってくれていたのが幸いで、私たちが一緒にいることを誰も気づかなかった。
もしかしたら、つぼみちゃんは気づいていたかもしれないけれど…
坂を下る足が進むにつれて、時間が過ぎるのが止まればいいのにという気持ちが強くなった。
隣に並んだ滝沢を見上げると、なんでもないような顔をされたから、切なかった。
実はずっと気になっていた。
心の奥底で、ざわざわしていた。
思う、って、何…と笑うつもりでいたのに、
顔が動かなかった。
その代わり、口だけで言った。
怖かった。
滝沢の反応を見るのも、知って、あとで涙を流すのも怖かった。
滝沢は黙って首を横に振った。
安心してしまった。
ひどいと思うけど、素直にほっとした。
肩にかけたカバンを1度上に投げて胸で受け止めた。
私は何も言えなかった。
荷物で重くなった腕が、また、ずしりと軋んだ。
私の家が、もう、目の前にあった。
別れなくちゃいけない。
きっと、これがもう、最後だ。
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。