おつかれ様、という言葉が部室から聞こえだした頃、私は斗真を思い出してため息をついた。
行かなければいけない。
どんな顔で行こう…
そんなことを思ってカバンを背負っていると、後ろから気だるげな声がした。
ふうん、と息をついてから、
滝沢は齋藤に手を振った。
そのまま帰るのかと思ったけど、私の前にいたままだったから、声をかけてしまった。
ただ一言二言話しただけなのに、部室はいつもの賑わいをなくしていた。
バッサリ、そう言って笑った。
その笑顔さえも眩しく見えてしまうから、虚しくて、悲しくなった。
滝沢から視線を外したとき、
私の肩に手のひらがのった。
驚いて振り向くと、斗真がいた。
息を切らしていた。
斗真は滝沢の質問には答えず、私を見た。
なにしてんの…
と、口だけで訴えてきた。
やっぱ、気づいてるなあ、斗真。
私が滝沢を好きだって。
斗真の表情に少しだけ恐怖心を持った私は
滝沢に目を移した。
強く腕をひかれたかと思えば、そのまま斗真は走り出した。
掴まれた右腕と、滝沢の声が聞こえた耳がズキンと痛かった。
今にも泣きだしそうな目で謝られた。
なんでこんなことをするのか、私にはわからない。
初めて、斗真のことを理解できないと感じた。
目に涙が浮かんでしまった。
袖で涙を拭ったら、拭いきれなかったのか、
まだ瞼には涙の感覚が残っていた。
どうしても斗真の顔を見られなかったから
そのまま先を歩き始めた。
斗真は何も言わないで私の後ろを歩いた。
きっと、俯いていただろう。
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。