第11話

一人ぼっちの迷い猫
2,523
2019/01/19 06:10
上嶋くんの背中が夕日に飲まれて遠くなっていく。
三好 修吾
三好 修吾
行かないで……

 いつもは頼れる三好先輩の顔が淋しげで、私はすぐに腕を振り払えなかった。
九井原 夕莉
九井原 夕莉
……先輩
三好 修吾
三好 修吾
お願い、夕莉ちゃん
三好先輩が私を引き寄せた。先輩の瞳には夕日の淡い光が灯っている。
ゆっくりと先輩の顔が近づいてきて、瞳に吸い込まれそうになる――
九井原 夕莉
九井原 夕莉
ごめんなさい!

我に返った私は先輩を突き飛ばし、逃げるように走り出した。

九井原 夕莉
九井原 夕莉
(先輩は今、何をしようと――)
口元を押さえて、私は上嶋くんの後を追った。
先輩、ごめんなさい。




















私は茜色にぼやけた町中を走り過ぎていく。
九井原 夕莉
九井原 夕莉
(上嶋くん、どこにいるの?)
立ち止まって、はあはあと肩で息をする。
九井原 夕莉
九井原 夕莉
(私が中途半端な気持ちでいたから、上嶋くんを傷つけた。)
目元が熱くなってぎゅっとスカートを握りしめる。冷たい体を抱きしめて俯いた。
九井原 夕莉
九井原 夕莉
(また……一人ぼっち)
熱い血の通らないこの体を上嶋くんは温めてくれた。
九井原 夕莉
九井原 夕莉
(ううん……落ち込んじゃだめ!  それじゃ今までと同じになっちゃう。上嶋くんに謝らなきゃ。)
私が自分を奮い立たせると、小さな鳴き声が聞こえた。
にゃーん

塀の上から猫がこちらを見ていた。白い毛並みで目の周りにサングラスをかけているような黒い模様があった。
九井原 夕莉
九井原 夕莉
猫……?
フギャーッ!   ……にゃーん
思わず手を伸ばすと猫は怖いものでも見たように飛び上がり、降参したみたいにお腹を見せた。
九井原 夕莉
九井原 夕莉
……服従?
ガッシャーーーーーン!
と大きな音が物音が路地裏から聞こえた。ゴミ箱が足元にゴロゴロと転がってくる。
上嶋 幸寛
上嶋 幸寛
いたた……
九井原 夕莉
九井原 夕莉
上嶋くん!?
路地裏の影からのっそりと上嶋くんが現れた。綺麗な顔が薄汚れていて、制服にも土埃がついていた。
上嶋 幸寛
上嶋 幸寛
九井原……
一瞬だけ、上嶋くんと目が合うけどその瞳はすぐに逸れて――
上嶋 幸寛
上嶋 幸寛
あ! ゴンザレス
九井原 夕莉
九井原 夕莉
へ?
上嶋くんは私の側にいる猫を指さして叫んだ。
上嶋 幸寛
上嶋 幸寛
やっと見つけたぞ……
ゴンザレス
ふしゃーっ!
上嶋くんが近づくと、猫は毛を逆立てて威嚇する。
九井原 夕莉
九井原 夕莉
上嶋くん……その猫は?
上嶋 幸寛
上嶋 幸寛
依頼の迷い猫だ。名前はゴンザレス
九井原 夕莉
九井原 夕莉
ゴンザレス……(ゴツい)
上嶋くんは頭を掻いて私に向き合い、真摯な態度でこう言った。
上嶋 幸寛
上嶋 幸寛
……もう無理に助手にするなんて言わない。俺一人で全部やるから。悪かったな
上嶋くんが近寄ろうとするとゴンザレスは爪をむき出しにして唸っていた。
手を出して捕まえようとするたびに引っ掻かれそうになる上嶋くん。
上嶋 幸寛
上嶋 幸寛
あっこら、大人しくしろって
ゴンザレス
フシャアーッ!
上嶋 幸寛
上嶋 幸寛
う……
無理やり助手になってくれって迫ってきたり、もう一人でいいって勝手に謝ってきたり。
まるで猫みたいにきまぐれで、本当――自分勝手なんだから。
 
九井原 夕莉
九井原 夕莉
もう! 仕方ないなあ
私はゴンちゃん(あだ名)をひょいと抱きかかえる。暴れる様子もなく、すっぽりと胸に収まった。
上嶋 幸寛
上嶋 幸寛
お前……よくその暴れ猫を簡単に……!
九井原 夕莉
九井原 夕莉
……私も手伝う
上嶋 幸寛
上嶋 幸寛
……え
九井原 夕莉
九井原 夕莉
探偵、手伝ってあげる。猫も捕まえられないような探偵さんじゃ心配だしね
上嶋 幸寛
上嶋 幸寛
むっ…………
九井原 夕莉
九井原 夕莉
……それと
私は上嶋くんを真っ直ぐ見据えた。
九井原 夕莉
九井原 夕莉
私、もう上嶋くんから逃げないから
例え、本当は一緒にいられない存在でも。
君を守ってみせるから――。
もう、諦めるのはやめにする。
九井原 夕莉
九井原 夕莉
だから……私のこと助手にしてください
上嶋くんは驚いて少し目を見開く。
でも、すぐに子供みたいに笑った。
上嶋 幸寛
上嶋 幸寛
……勝手な奴
腕の中で、ゴンちゃんがみゃあと鳴いた。

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