上嶋くんの背中が夕日に飲まれて遠くなっていく。
いつもは頼れる三好先輩の顔が淋しげで、私はすぐに腕を振り払えなかった。
三好先輩が私を引き寄せた。先輩の瞳には夕日の淡い光が灯っている。
ゆっくりと先輩の顔が近づいてきて、瞳に吸い込まれそうになる――
我に返った私は先輩を突き飛ばし、逃げるように走り出した。
口元を押さえて、私は上嶋くんの後を追った。
先輩、ごめんなさい。
私は茜色にぼやけた町中を走り過ぎていく。
立ち止まって、はあはあと肩で息をする。
目元が熱くなってぎゅっとスカートを握りしめる。冷たい体を抱きしめて俯いた。
熱い血の通らないこの体を上嶋くんは温めてくれた。
私が自分を奮い立たせると、小さな鳴き声が聞こえた。
塀の上から猫がこちらを見ていた。白い毛並みで目の周りにサングラスをかけているような黒い模様があった。
思わず手を伸ばすと猫は怖いものでも見たように飛び上がり、降参したみたいにお腹を見せた。
ガッシャーーーーーン!
と大きな音が物音が路地裏から聞こえた。ゴミ箱が足元にゴロゴロと転がってくる。
路地裏の影からのっそりと上嶋くんが現れた。綺麗な顔が薄汚れていて、制服にも土埃がついていた。
一瞬だけ、上嶋くんと目が合うけどその瞳はすぐに逸れて――
上嶋くんは私の側にいる猫を指さして叫んだ。
上嶋くんが近づくと、猫は毛を逆立てて威嚇する。
上嶋くんは頭を掻いて私に向き合い、真摯な態度でこう言った。
上嶋くんが近寄ろうとするとゴンザレスは爪をむき出しにして唸っていた。
手を出して捕まえようとするたびに引っ掻かれそうになる上嶋くん。
無理やり助手になってくれって迫ってきたり、もう一人でいいって勝手に謝ってきたり。
まるで猫みたいにきまぐれで、本当――自分勝手なんだから。
私はゴンちゃん(あだ名)をひょいと抱きかかえる。暴れる様子もなく、すっぽりと胸に収まった。
私は上嶋くんを真っ直ぐ見据えた。
例え、本当は一緒にいられない存在でも。
君を守ってみせるから――。
もう、諦めるのはやめにする。
上嶋くんは驚いて少し目を見開く。
でも、すぐに子供みたいに笑った。
腕の中で、ゴンちゃんがみゃあと鳴いた。
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。