第4話

好きって、何?
4,146
2018/10/23 09:06
朝の教室、まだ人もまばらな教室で真っ先に目に入るのは。
九井原 夕莉
九井原 夕莉
……おはよ
朝から机に伏せっている上嶋幸寛だ。
九井原 夕莉
九井原 夕莉
この前はありがと
上嶋 幸寛
上嶋 幸寛
…………
九井原 夕莉
九井原 夕莉
この傘、上嶋くんのでしょ? 返すね
上嶋 幸寛
上嶋 幸寛
……………………
九井原 夕莉
九井原 夕莉
……ちょっと、聞いてる?
上嶋 幸寛
上嶋 幸寛
……うるさいなぁ
冬眠を邪魔された熊みたいに低い声で上嶋くんは唸るように言った。
上嶋 幸寛
上嶋 幸寛
寝てるんだから話しかけないで……だるい
九井原 夕莉
九井原 夕莉
……な!
上嶋くんは身じろぎをして、顔を上げないまま追い払うように手を振った。
九井原 夕莉
九井原 夕莉
(何よ……ちょっとは話せるやつかと思ったのに)
九井原 夕莉
九井原 夕莉
(こんな奴、好きになるわけない)
杉本 美空
杉本 美空
夕莉、おはよう。今日は早いねー
九井原 夕莉
九井原 夕莉
あっ(上嶋くんと話してたの見られたかな……)お、おはよ! 美空こそ早いじゃん
杉本 美空
杉本 美空
あはは……あのね、実は授業が始まる前に夕莉に相談したいことがあって
もじもじと落ち着かない美空に連れ出されて廊下に出る。すると、美空は私にそっと耳打ちした。
杉本 美空
杉本 美空
……実は好きな人が、いるんだけど
九井原 夕莉
九井原 夕莉
えっ!?
杉本 美空
杉本 美空
しーーーっ! 夕莉声大きいって
九井原 夕莉
九井原 夕莉
(上嶋くん……ではないよね?)
九井原 夕莉
九井原 夕莉
ごめんごめん……それで、美空の好きな人ってイケメン?
杉本 美空
杉本 美空
最初に聞くと思った……まあ、イケメン……だよ。手が届かないくらい
九井原 夕莉
九井原 夕莉
手が届かないイケメン? それはそれは、また食欲をそそられそうですな……
杉本 美空
杉本 美空
夕莉……よだれよだれ
九井原 夕莉
九井原 夕莉
はっ、じゅるり。で、その相手って誰なの?
杉本 美空
杉本 美空
……三好先輩
九井原 夕莉
九井原 夕莉
ええっっっっっ!?
杉本 美空
杉本 美空
夕莉! 声抑えて!
九井原 夕莉
九井原 夕莉
ごめん……三好先輩か、うちの高校で有名な王子様イケメンを好きになるなんて美空にしては意外かも
杉本 美空
杉本 美空
夕莉、ゴリゴリの肉食系とか想像してたでしょ……
九井原 夕莉
九井原 夕莉
やっぱり男は顔で味が決まるよね!
杉本 美空
杉本 美空
そんな出汁で味が決まるみたいな……って顔はカッコいいと思うけど、そうじゃなくて……
九井原 夕莉
九井原 夕莉
何?
杉本 美空
杉本 美空
……うう、恥ずかしくて言えない
美空は真っ赤になった顔を手で覆い隠してしまった。
九井原 夕莉
九井原 夕莉
(……これが恋してる女の子の顔なんだ。美空がいつもより可愛く見える。)
杉本 美空
杉本 美空
……見てるだけで全然話したことなくて。このままじゃいけないと思っても何もできないままで……
九井原 夕莉
九井原 夕莉
協力するよ。私三好先輩と同じ図書委員だし、美空に何かきっかけとか作れるかも。三好先輩の好みのタイプとか聞き出してあげる!
杉本 美空
杉本 美空
ほんと!? 夕莉……ありがとぉ~~~~!
九井原 夕莉
九井原 夕莉
ちょっ、美空! 苦しい! そんなに泣かれたら鼻水つく!
美空に抱きつかれながら横目で教室の中を覗く。
机に伏せた上嶋くんのつむじが見えて、私の胸にちくりと痛みが走った。
















帰りのHLが終わってクラスメイトがぞろぞろと教室を出ていく。でも、上嶋くんは腕に頭を載せた居眠りスタイルのまま動かない。
九井原 夕莉
九井原 夕莉
(おかしいな……チャイムが鳴ったら、いつもすぐに帰っちゃうのに)
九井原 夕莉
九井原 夕莉
ちょっと、上嶋くん。起きろー、もう帰る時間だよ
私は上嶋くんを強めに揺すった。
九井原 夕莉
九井原 夕莉
流石に今日は寝すぎじゃない? 朝からずっとそうじゃ……
揺さぶった上嶋くんの頭が横になって、顔が見える。汗で額に張り付いた前髪と、紅潮した頬、それから浅い呼吸。
九井原 夕莉
九井原 夕莉
上嶋くん!? 熱っ……もしかして風邪……?
九井原 夕莉
九井原 夕莉
(どうしよう、これって)
九井原 夕莉
九井原 夕莉
わたしの、せい?
額から離そうとした手を上嶋くんに掴まれる。熱で揺らいだ黒い瞳が、じっと私を見つめていた。
大きくて、ごつっとした手が縋るように私の指先を握る。
九井原 夕莉
九井原 夕莉
わっ……上嶋くん!?
上嶋 幸寛
上嶋 幸寛
…………ゆう
九井原 夕莉
九井原 夕莉
……え
私の名前……?
上嶋 幸寛
上嶋 幸寛
…………ゆう、か
助けを求めるように、か細く弱々しい声を絞り出して、上嶋くんは意識を失った。
九井原 夕莉
九井原 夕莉
……ゆうか?
ゆうかって――――誰?

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