上嶋くんと一緒にちょっとした事件(ペット探しとか、浮気調査とか)を解決していったけど、一向に食人鬼の手がかりは集まらない。
助手になってから、私と上嶋くんは一緒に登下校をしていた。
最近朝でも日差しが強くなってきた。
上嶋くんが考え事をしている私を覗き込んできた。綺麗な顔が近い。
衣替えをして夏服になった上嶋くんはポロシャツの第一ボタンを開けており、美味しそ……じゃなくて色っぽいから目のやり場に困る。
さっきまで真面目なことを考えていたはずなのに、ボワッと顔が上気する。
うう……言えるわけがない。こんな恥ずかしいこと。
上嶋くんはじろじろと私を隅から隅まで観察してくる。
爆発のカウントダウンをして音を立てている心臓。緊張して足元が震えて、発汗した。
ここは通学路で、他の生徒たちの目もある。誤解されたら恥ずかしい私は上嶋くんから距離を取った。
はずだったのに。
さらりとすくい上げられた私の体は上嶋くんの腕に収まる。
私は上嶋くんにお姫様抱っこをされていた。
上嶋くんの体と密着してさらにドキドキが加速する。薄いポロシャツ越しにがっしりとした筋肉の硬さを感じる。歯ごたえがありそうな……ってだめだめ。
上嶋くんは、私にない熱をくれるんだ。
私を抱えて、彼はいつも通り冷静に見えたけど――
何となく、上嶋くんの体温がいつもより高いような気がした。
私は上嶋くんに抱きかかえられたまま、学校に着いた。周りからはもちろん注目されるし、本当に恥ずかし――
噂話が耳に入り、上嶋くんの顔を見上げる。
彼も気がついたようでこくんと頷いた。
周りを見渡すと、ひそひそと何かの話題で持ちきりのようだ。
上嶋くんは私を保健室に連れていき、ベッドの上に優しく降ろした。
大きな手が私の頭にぽんと置かれて、軽く撫でられる。
どうしよう、今日は全然心臓が治まらない。
本当に病気みたいだ。
上嶋くんは私を見やり保健室の扉を閉めた。
確かに、変に熱っぽいから少し休んだ方がいいのかも。
保健室の先生は留守らしく、とりあえず横になるしかなさそうだ。
目を閉じて、微睡みに身を任せようとしたときまた扉が開く音がした。
上嶋くん? もう戻ってきてくれたのかな。
ゆっくりと近づいてきた足跡が、私の前で立ち止まる。
目を開けると、そこに居たのは三好先輩だった。
三好先輩はあの日の寂しげな雰囲気を感じさせない柔和な笑みを見せる。
上嶋くん、三好先輩と知り合いだったの?
友達なんて、殆どいなさそうだったけど……。
私が返答の仕方に迷っていると、先輩は私の手を握ってきた。
キメ細くて、華奢な手。
上嶋くんとは違う体温。
先輩は愛おしむような手つきで、私の手を撫でた。
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。