【酔い】
辻×堂前
〈堂前side〉
──気分は熱燗やな。
最近、すごく冷える。身も心も凍りそうな気温。
少し、人肌寂しい夜や。
こんな日には、誰かと会いたかったりする。
そう、酔いたかった。
寂れた個室の居酒屋で、マンゲキメンバーとちょっとした飲み会。そんなことをしたい気分やった。
堂前「誰か誘おかな。」
でも今日は遅いし、明日か明後日くらいにメンバー誘って飲もう。そう思った。
少し心がほくほくしとる、そんな気がした。
堂前「冷えるなぁ、寒いなぁ…」
暖房がついているにも関わらず、寒い。
誰もおらへん楽屋で少し寂しさを覚える。
俺っていつからこんな寂しがり屋なってるんやろ。あかんな、歳かな笑
辻「おはようございます」
堂前「お、辻やん」
辻「堂前さん今日早いっすね、」
堂前「まぁな、笑、色々考え事しててな。」
辻「へぇ、堂前さんでも悩むことあったりするんすね笑」
堂前「アホ、おま失礼やな笑」
辻「ははっ笑」
辻……なんやかんや、こいつとおる時が1番落ち着くんかもしれへん。
いつもまっさきに声をかけてくれて、誰よりも俺のことをよく見てくれてる。
俺の方が先輩やけど、歳は下。敬語を使われることにちょっと複雑な気持ちなるけど、まぁ先輩面できてええかもな笑
堂前「あ、そや」
辻「どうかしました?」
堂前「いや、今日の夜、メンバー誘って飲み行きたいなーとか思っててな」
辻「うわ、めっちゃいいっすね。行きましょう」
辻「どこ予約します?席取っときますよ」
堂前「ええん?ありがとうな、」
辻「任せといてください笑、あ、メンバーも俺の方でチャチャッと決めてもええですか?永見とかそこら辺誘っとくんで笑」
堂前「あ、おう、ほんならよろしく」
辻「はい笑」
なんやこいつ、えらい乗り気やな。
俺の事、だいぶ慕ってくれとんかな笑
そう思うと、辻が可愛く見えてきた。
こんなにええ奴やのに、何故かこいつには恋人ができひん。
辻「…」
ー公演終わりー
永見「お疲れ様でしたー」
堂前「おう、おつかれ」
兎「お前、今日ええ感じやったで」
堂前「あ、ほんま?」
浜田「めちゃくちゃ良かったっすよ、なんていうか、楽しそうでした」
堂前「やった笑」
他愛ない話をして盛り上がる。割とこんな時間が一番好きやったりする。
永見「うわ、今日やっぱ寒いな、」
浜田「もうすぐ大寒波来るらしいからな」
永見「あーー寒っ、浜田にくっついとこ笑」
浜田「ちょ、やめろや鬱陶しいな!笑」
堂前「仲ええなぁ二人笑笑」
浜田「今だけっすよ笑」
兎「コンビでこんなんよーせーへんよな笑」
堂前「ホンマに笑」
──こんなふうにみんなで笑い合えるんって幸せやな。
そういえば、辻はここら辺のメンバー誘ってくれたんやろか?
堂前「あ、そういえばさ、辻から何か聞いとる?」
兎「いや?別になんも聞いてへんよ」
永見「特に何も言われてないですね、」
浜田「俺も何も言われてませんよ」
あれ?おかしいな、今日の晩やで?まだ誘ってへんのかな?
兎「どうかしたん?」
堂前「いや、特に何も無いねん」
何でなんやろ。
でも、信頼しとる後輩のことやし。きっと何か考えてくれてるんやろう。
それでも少しだけ、何を考えているんやろう?という疑いの念を抱いてしまった。
ー夕方ー
──ピコンっ
辻からや。今日の飲みのことかな?
辻〝今日の飲み、駅裏の○○って店予約しました。個室取っときました。19:30集合です〟
うーん?聞いたことない店やな、楽しみやわ
堂前「了解…っと」
メンバーと飲めるん久しぶりやな。
明らかにソワソワしてるのが自分でも分かる。寂しい独り身には、夜に誰かと絡めるのが最高のひとときや笑
盛山「おお!堂前やん」
堂前「盛山さん!!!」
盛山「なんか久しぶりやなぁ笑、中々出番被らんからどうしとんかと笑」
堂前「いや、独り身には寂しい時期ですよ笑笑」
盛山「せやなせやな笑笑」
盛山「あ、そうそう今からみんなで飲むねんけど、堂前も来るか?」
堂前「みんなで?あーーすみません、俺も今日ちょうど他の奴と飲む約束してて、」
盛山「おーーそうか残念やわ!また機会あったら飲もな!」
堂前「はい、お願いします笑」
盛山さんも今日飲みに行くんや、うわー、俺別日にすればよかったなぁ…
ところでみんなって誰々おるんやろ。辻の呼んだメンバーと被ってへんのやろか?
ー夜ー
辻「……あ、堂前さん」
堂前「おお、この店初めてやから結構探したわ笑」
辻「地図送ればよかったっすね笑」
堂前「ホンマやで笑笑」
辻「まぁ、とりあえず飲みましょうか」
堂前「そうやな…って他のメンバーは?」
辻「あー…それなんすけど、みんな仕事やらで忙しいらしくて都合合わへんくて。結局俺だけです笑」
堂前「ほんま?また別の日にすれば良かったなぁ、 なんか寂しいやんな笑」
辻「いや、でも二人で飲めるん俺は結構嬉しいです」
堂前「な、なんやお前!照れるやん笑」
辻「いやいやほんまのことですよ笑」
堂前「お、おう…笑、な、なんか頼もか!俺は…」
辻「熱燗いきます?」
堂前「お!分かっとるやん笑」
辻「堂前さんのことなら何でもわかってますよ笑」
堂前「なら、それで。辻は?」
辻「俺も同じので。」
メンバーみんな来られへんとかあるんやな、ちょっと寂しい気持ちあったけど、辻がおるから寂しさが薄れてく。やっぱりこいつだけやわ!とか思っとる笑
1番信頼を置いとる後輩がおってよかった。
…俺の前で酒を飲んどる姿。
何故か今日のこいつは雰囲気がいつもと違う。やけに生々しい。
──そう、まるで今から狩りでもする獅子かのように。
ふとそんなことを思った。やば、俺後輩に向かって何考えとるんやろ。ただの変態やん笑
辻「どうしました?笑、ぼーっとして。俺に見惚れてます?笑」
堂前「いや、ほんまお前って魅力的やのに何で恋人できひんのやろって思ってな。」
辻「………はは、欲しいんですよ。その人が恋人になってくれないだけで。」
堂前「そんな女性がおるんか!うわぁ、もったないなぁ、その人も。こんなええヤツおらんで?」
辻「…しっかりしてるようでどこか鈍感で抜けてて。そんなとこも可愛くてしょうがない人なんすよ。やのに、その人は俺を見んと他の人ばっか見てるんすよ。」
辻「…ほんま、どんだけ俺の調子狂わすんでしょうね。」
堂前「そ、そうなんか…」
どうしたんやろ。こんな辻の顔見た事ない。真剣でどこか色気があって、ほんでもってめちゃくちゃ怖い。
今日は少しはよ切り上げよかな、
堂前「まぁ、でもいつか他にええ人現れるって!」
辻「他にいい人?…無神経によくそんなこと言えますね。」
辻「これだけ俺好きやのに、何で俺やとあかんのでしょうね。」
やばい、俺、地雷踏んでもたかも。
ほんまに辻の様子がおかしい。普段はこんなんやない。怖い。
早く、帰りたいなんて思ってしまった。
気まずい空気に耐えきれんくなって、目の前の熱燗をぐいっと飲み干した。
──なんか甘ない?
なんやろ、ここの店の酒飲んだことないから分からんけどこんな味なんやろか。
辻「…飲みましたね。堂前さん。」
堂前「…へ?な、何や?」
辻「堂前さんは、俺のもんです。」
堂前「へっ、?」
こいつ急に何を言い出しとんや、頭が追いつかん。俺のもん、?へ?
辻「…他のヤツ見るとか、許さへんので。」
──ドサッ
堂前「は、離せやっ、ちょ、何してんねんっ」
堂前「悪ふざけにも程があるって、」
辻「悪ふざけ?笑、俺、本気なんすよ。」
辻「…もう、知っちゃったからには、二度と堂前さんのこと離すつもり無いんで。」
押し倒されて、両手を拘束される。
辻の手にこもる力が強くなるのがわかる。
あかん、こいつマジの顔しとる。
怖い…怖い。
──ピコンっ
俺のスマホの画面には盛山さんからのメッセージが。
盛山〝今日はこのメンバーと飲んでまーす!笑〟
その文と一緒に送られてきた写真には
兎、永見、浜田………
…あれ?このメンバー…仕事やったんやないん?
辻「堂前さん。そろそろ眠くなってきました?笑」
押し倒されている俺の上で、馬乗りになっている辻が呟く。
堂前「…辻…」
あの酒に絶対何か盛られてた。
今気づいても、もうどうすることもできひん。
視界が朦朧とする
辻が俺の手からスマホを奪う。
辻「あ、このメンバーで飲みに行ってるんすか。俺が他のメンバー呼ぶと思いました?笑、せっかくのチャンスを逃すわけないやないですか。
まぁ、いくらでも気づけるチャンスがあったのに…堂前さんってほんま鈍感っすね。」
辻「のこのこと俺についてきた堂前さんが悪いんですからね笑」
何をされるか分からない恐怖と、思わぬ所で裏切られたショックとが相まって溢れ出す涙。薬のせいか段々と視界が暗くなっていく中、
辻「愛してます。堂前さん」
この一言だけがはっきりと俺の耳に残った。
そして、俺はゆっくりと眠りについた。
辻「堂前さん…目が覚めた時には、もう俺のもんになってますからね。大丈夫、全部酔いのせいです。」
ねっとりとした声が小さな個室に響いた。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!