朝日が登り始めてもリリアは起きる様子がない…
リリアは魔法師の中でも腕が立つ。
そんな、彼でさえ…睡魔には勝てない…
それを思うと自分のバケモノさが身に染みる。
この部屋に時計はないが
きっと、そろそろ2人が朝のランニングを始めるのだろう
ほんの少しの嫉妬なら、許されるだろうか?
“以前は私も肩を並べて走っていたんだよ“
“わざわざ、ここまで迎えにだって来てくれた“
“毎回、今度こそ勝ってみせると言った“
“いつも負けては、当たり前だと言って笑ってた“
“負けるのが大嫌いなはずなのに“
“いつもいつも、子供のように嬉しそうに笑う“
膝を抱えたって、意味などない。
『忘れてしまう』事は
彼らの責任ではないのだから…
これは、全て私そのものが原因で
私にかけられた、最悪の呪いだ…
運動着に着替え外へ出る。
頬を撫でる風は、穏やかで優しい
ウォームアップには丁度いい気候だろう
私には、それすらも「分からない」
2人のコースは知っている
偶然を装って、そのコースへと足を向ける。
会ったところで虚しいだけ。
それでも、向かわずにはいられなかった。
到着した、場所に2人の姿はまだ見えず…
何もしないよりはマシだと思い
運動場をグルグルと軽く走りながら
ユウとグリムについて考える。
彼らは、何者なのか…
それは、今回の大きな課題になってくる。
この世界を何度も『繰り返す』なんてゴメンだ
最悪でも、最小限に抑えて済ませたい。
それには、あの新人さん達の
『この世界』での『立場』を理解する必要がある。
昨日での印象は…
流れで2人と一緒にランニングを始めたけれど
頭の片隅で大きな違和感を感じていた。
本来なら、ヴィルがここまで話をするなんて
正直…ありえないからだ。
前回の時も同じようにランニングに参加したが
彼が話をするようになったのは
一ヶ月近くかかっていたはず…
「無駄話はやめて」
「集中しなさい」
「邪魔するなら離れてくれない?」
彼が話す内容は大体、一言で終わる。
なのに、今回は誰よりも率先して
彼が話をしている?
これは、新しい捻れによる変化なのだろうか?
構えていた分、拍子抜けするが
あっさり受け入れてもらえるのであれば
時短になって都合はいい。
それにしても…なんだ、この違和感は…
どうにも今回はおかしな事が多すぎる…
こんな事が本当にあるのか?
どんな世界でも私を「忘れなかった」人物はいない。
リリアのように『繰り返し』意外の記憶があったとしても
『繰り返し』の中のことは覚えていない。
と、いうより…時間が強制的に巻き戻るので
出会う前に戻されているのだ。
それを、覚えている?
いや…ヴィルは「思い出した」と言っていた。
忘れていたことに、間違いはないはず…
じゃぁ何故、思い出した??
何処までの事を、どれだけ思い出した?
それによっては…この世界は大きく動くことになる。
変化をもたらす前に変化がやってきている。
監督生とグリム
そして前回の記憶を取り戻したヴィル…
今まで以上に厄介な展開にならなきゃ良いが
いや、これはどう考えたって…
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。