第5話

棺桶
236
2021/01/21 18:41
…体が重だるい…

一番最初に、思った事はソレだった。

どうやら眠っていたようだ…
眠っている最中だろうと、そうじゃなかろうと
体が重だるいなんて、感覚は随分懐かしい。

それほどの眠り…だったのだろうか?

体を動かしてみたら「そこは」とても狭い場所だったらしく
膝をぶつけてしまった…

冷えていた体に体温が戻るように、ゆっくり
じわじわと意識がハッキリしてくる。

それと同時に

この「狭い空間」や「独特な匂い」の記憶も

じわじわと戻ってきている事がわかった。

どうやら…

___着たくない場所にきてしまったらしい___

音楽のように再生される
さまざまな人の声が頭の中を木霊する

心地良いような、悪いような…
複雑な心境であることに違いない…

この狭い空間から出る事が、ますます躊躇われる
入っていて良いのであれば、そうしていたい。

母体から産まれない赤子はいない。

そう、促すように聞き慣れた1人の声が聞こえてきた。
クロウリー
クロウリー
あなたがとっくに目覚めておいでなのは知っていますよ?
さっさと出てきていただけると
こちらとしても、話が早いのですが…いかがでしょうか?
この声、このトーン、この喋り方…
あぁ…

ハッキリと思い出してしまう。
いっそ思い出さないでくれた方が楽だったと言うのに…

「狭い空間」の中から
相手に向かって声をかける

主人公
主人公
寝起きはダラダラしていたいタイプな、もので
クロウリー
クロウリー
今、ここには私しかいませんよ?
心配入りませんので出てきて顔を見せて下さいよ!
私、あなたにとぉ〜っても会いたかったんですよ?!
主人公
主人公
あんたの「会いたい」は
私にとっての「会いたくない」
になるように、思うのだけれども…いかがかな?
クロウリー
クロウリー
いやですねぇ〜!そんな冷たい事おしゃられては…
泣いてしまいますよ?
これでも私、ナイーブなんですから!
主人公
主人公
よく言う…目を見て会話もできない奴が…
クロウリー
クロウリー
シャイなんです!!
さ、さ!!そろそろ元気になってきたのでは?
渋々に「狭い空間」から外に出る。

入っていた空間は棺桶の姿をした「扉」のようなものだ。

棺桶の外では、1人の男が立っていて
石畳の床はひんやりとしているが、部屋全体は適正温度に保たれている。

奥には鮮やかな紫色のカーテンと
見慣れた顔ぶれの肖像画が、飾られている。
主人公
主人公
私をここに呼んだのは?
クロウリー
クロウリー
やはり、あなたは話が早くていらっしゃる。
主人公
主人公
問題が起きないと私を呼ばないだろう?
何度、呼び出しを食らっていると思っている…
正直…君たちには良い加減にしてほしいよ
クロウリー
クロウリー
申し訳ありません。私“達“には
“何度も“の記憶はございませんので…
そこは、大目に見ていただけないでしょうか?
主人公
主人公
………本当に厄介だよ…“君達“は…
いつだって、私のことを覚えているものは「少ない」
人の生の短さと、巻き戻ってしまう時間のせいではあるけれど

それにしたって、この世界は厄介なのだ…

例えば、別 の世界で『繰り返し』を行ってしまっても
その時間の変化は『繰り返すだけ』で終わることが多いからだ。
私が何かをしたとしても、『同じ事が必ず起こる』
だから、臨機応変に関わる事、遠ざける事も
その時々で選択する「権利」を得られると言うわけだが

この世界の厄介なところは…

決して『繰り返さない』こと

厳密には『繰り返している』が、それは
『私が繰り返さなくては、繰り返されない』と言う点

この差は大きい

関わる事が前提とされた『繰り返し』をしなくてはならず
結末自体も、その『繰り返しに委ねられる』から
問題が起きれば、強制的にここに連れてこられるし
問題を解決しなければ、ここからは
「当然」として「出られない」

前回の『繰り返し』も何回と『書き換え』を行って
やっと別の世界線にいくことが許されたと言うのに…

また、こうやって
この世界は「厄介」な「問題」を起こす。
クロウリー
クロウリー
正直、私にもあなたが来られた「問題」が
なんなのかはわかっていません…
主人公
主人公
…そうか
クロウリー
クロウリー
ですが、あなたが「必要」である事は
あなたがここにいる時点で明白です。
どうか…その目で「問題」を見つけていただき
ご助力いただけると、幸いなのですが?
主人公
主人公
あんたは、あいも変わらず他力本願なんだな…
クロウリー
クロウリー
いえいえ!!!
わ、私だって、そりゃぁ!もう!!
全身全霊、力を尽くすつもりです!当たり前じゃないですか!
…ですが〜…
主人公
主人公
ほぅ?ですが?
クロウリー
クロウリー
私も学校の管理を任されている身!!
正直、問題は山積みで!!
力は尽くしますが、それで学校のことを
丸投げするなんて事はできないじゃないですか!!?
主人公
主人公
(相変わらず、よく喋る…)
まぁ…いいさ…どうせ嫌でもやらねばならない。
クロウリー
クロウリー
おぉ!そうですか!
やはり、あなたは話が早いですね!!!
私、助かっちゃいます!
クロウリー
クロウリー
では、早速ですが今後の話をさせていただいても?
主人公
主人公
…あぁ
クロウリー
クロウリー
実は、数日前に入学式が終わったばかりでして…
今回あなたは「特待生」と言うことで入学して頂きます。
主人公
主人公
つまり、一年生に混ざって学生をする…?
クロウリー
クロウリー
そうです!
実際、あなたは彼らと同じ年ですし!
主人公
主人公
性別はどうするおつもりかな?
クロウリー
クロウリー
隠してください。
主人公
主人公
即答ときた
クロウリー
クロウリー
えぇ…ここは、由緒正しき「男子校」です。
特待生とは言え、女性を堂々と入学させるなんて事は
前代未聞ですよ!!

…ご理解いただけます?
主人公
主人公
…はぁ…わかった…
まぁ、バレなきゃ良いんだろ…なんとかなる。
クロウリー
クロウリー
あぁ!良かった!さすがですね!!
それでですね…ねぇ〜今回の寮なのですが…
主人公
主人公
寮ね…いつものボロ寮じゃないのか?
クロウリー
クロウリー
“いつもの“ですか…なるほど〜…
主人公
主人公
それも、覚えていないのか…
お前もなかなかに面倒なやつだな…
クロウリー
クロウリー
実は今回、あなたの仰っている
「オンボロ寮」なのですが…少々、その〜
主人公
主人公
わかってるんじゃないのか?
今回の“問題“が…
クロウリー
クロウリー
いえ!いえいえ!!
わかっている、という所までではないのですが…
“特殊な生徒“がおりまして…
実は、その“子達“が現在、「オンボロ寮」を使用しておりまして〜
主人公
主人公
煮え切らない喋り方はモテないよ?
クロウリー
クロウリー
えぇ…私が頭を抱えている生徒の1人なのですが…
主人公
主人公
さっき「その“子達“」と言わなかったかな?
次は「1人」?どういうことだ…
クロウリー
クロウリー
あなたに隠し事をしても仕方がないのですが
私が説明するより、その目で見ていただくのが早いかと…
主人公
主人公
つまり、めんどくさい?
クロウリー
クロウリー
…いえ、別に…
主人公
主人公
めんどくさい?
クロウリー
クロウリー
…正直…とっても…
とっても!めちゃめちゃ!!!すっごく!!!
めんどくさい子達なんですっっっ!!!
主人公
主人公
…正直でよろしい…
それを聞いて、私は今すぐ墓穴を掘りたくなったさ
クロウリー
クロウリー
まぁ、そう仰らず〜
あなたなら、彼らとも仲の良くなれと思いますよ?
主人公
主人公
はい出た。他力本願〜
クロウリー
クロウリー
んんっ!!(咳払い)
とりあえず、この後…各寮長と副寮長をそれぞれ集め
あなたを紹介させていただきます。
クロウリー
クロウリー
鏡の間にて、念のため!
魔法の鏡に各寮の選別を行っていただきますので
お願いいたします。
主人公
主人公
念のため…ねぇ?
クロウリー
クロウリー
あたなには、一度…その…
主人公
主人公
棺桶に入って、良いタイミングで出てこい、と
クロウリー
クロウリー
あぁ、やはり話が早い!!!
そうです!!これも“念のため“です!よろしいですね
主人公
主人公
あいよ、りょ〜かい〜
クロウリー
クロウリー
くれでれも“学生“である事をお忘れなく!!
私も、あなたの事はハッキリと聞いているわけではないので
なんとも、言い難いところはありますが…
主人公
主人公
そうなのか…わかった。
せっかくだしね、楽しむよ
クロウリー
クロウリー
そうですか!!!あぁ〜良かった!
実は少しドキドキしていたんですよ!!
あなたの話があまりにも、壮大すぎて…
私、この歳で漏らしそうになりましたよ?漏らしてはいませんが
主人公
主人公
…努力はするよ…多分ね
クロウリー
クロウリー
私が漏らしたら、あなたの責任ですからね?
主人公
主人公
漏らすことで脅されるのは正直初めてだ
主人公
主人公
心配しなくても…どうにかなるものだよ?
クロウリー
クロウリー
そうですか…では、棺桶の中へ

鏡の間まで、そのまま私がお運びいたしますので
安心して、ゆっくりくつろいでいてくださいね!
男は終始、ヘラヘラと話ていた。

言われるがままに、棺桶の中に戻る

体に少しスペースのある程度の空間は
ほんのりと柔らかな匂いがする。

この空間は嫌いじゃない。

扉が閉められ、暗闇の中にスッポリと収まる

久しぶりに来る世界

変化があるのか、ないのか…

この世界は『普通の世界』と違う
ただの『繰り返し』が行われない世界
だからこそ、面倒でもあり、面白くもある。

ただ…

確実に、厄介な問題がついて回る

それは『巡り』と呼ぶべきなのか…

暗闇の中、どこを見つめるでもなく、見つめる

思い出す過去の記憶


心臓が締め付けられるような


過去の記憶

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