…体が重だるい…
一番最初に、思った事はソレだった。
どうやら眠っていたようだ…
眠っている最中だろうと、そうじゃなかろうと
体が重だるいなんて、感覚は随分懐かしい。
それほどの眠り…だったのだろうか?
体を動かしてみたら「そこは」とても狭い場所だったらしく
膝をぶつけてしまった…
冷えていた体に体温が戻るように、ゆっくり
じわじわと意識がハッキリしてくる。
それと同時に
この「狭い空間」や「独特な匂い」の記憶も
じわじわと戻ってきている事がわかった。
どうやら…
___着たくない場所にきてしまったらしい___
音楽のように再生される
さまざまな人の声が頭の中を木霊する
心地良いような、悪いような…
複雑な心境であることに違いない…
この狭い空間から出る事が、ますます躊躇われる
入っていて良いのであれば、そうしていたい。
母体から産まれない赤子はいない。
そう、促すように聞き慣れた1人の声が聞こえてきた。
この声、このトーン、この喋り方…
あぁ…
ハッキリと思い出してしまう。
いっそ思い出さないでくれた方が楽だったと言うのに…
「狭い空間」の中から
相手に向かって声をかける
渋々に「狭い空間」から外に出る。
入っていた空間は棺桶の姿をした「扉」のようなものだ。
棺桶の外では、1人の男が立っていて
石畳の床はひんやりとしているが、部屋全体は適正温度に保たれている。
奥には鮮やかな紫色のカーテンと
見慣れた顔ぶれの肖像画が、飾られている。
いつだって、私のことを覚えているものは「少ない」
人の生の短さと、巻き戻ってしまう時間のせいではあるけれど
それにしたって、この世界は厄介なのだ…
例えば、別 の世界で『繰り返し』を行ってしまっても
その時間の変化は『繰り返すだけ』で終わることが多いからだ。
私が何かをしたとしても、『同じ事が必ず起こる』
だから、臨機応変に関わる事、遠ざける事も
その時々で選択する「権利」を得られると言うわけだが
この世界の厄介なところは…
決して『繰り返さない』こと
厳密には『繰り返している』が、それは
『私が繰り返さなくては、繰り返されない』と言う点
この差は大きい
関わる事が前提とされた『繰り返し』をしなくてはならず
結末自体も、その『繰り返しに委ねられる』から
問題が起きれば、強制的にここに連れてこられるし
問題を解決しなければ、ここからは
「当然」として「出られない」
前回の『繰り返し』も何回と『書き換え』を行って
やっと別の世界線にいくことが許されたと言うのに…
また、こうやって
この世界は「厄介」な「問題」を起こす。
男は終始、ヘラヘラと話ていた。
言われるがままに、棺桶の中に戻る
体に少しスペースのある程度の空間は
ほんのりと柔らかな匂いがする。
この空間は嫌いじゃない。
扉が閉められ、暗闇の中にスッポリと収まる
久しぶりに来る世界
変化があるのか、ないのか…
この世界は『普通の世界』と違う
ただの『繰り返し』が行われない世界
だからこそ、面倒でもあり、面白くもある。
ただ…
確実に、厄介な問題がついて回る
それは『巡り』と呼ぶべきなのか…
暗闇の中、どこを見つめるでもなく、見つめる
思い出す過去の記憶
心臓が締め付けられるような
過去の記憶
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。