8月の真っ定中の日は朝からとても暑い。
セミが鳴きわめいていてうるさいし、太陽がジリジリと照っている。
そんな地獄とも言える日の中、俺、琴瑶 瑛斗は色とりどりの花と和菓子を持って泉河病院に向かっていた。
ばあちゃんが入院したからそのお見舞いだ。ただ検査のために入院したらしいけど。俺も詳しくは聞いていない。
だが、そんなことは今はどうでもいい。こんなに暑くてはそんなものを気にしている余裕もない。
俺はこの暑さから逃れるために、目の前に見えてきた病院へと駆け込んだ。
途端にヒンヤリとしたエアコンの風が頰を撫でた。
命びろいしたな...。
心の中で呟きながら俺はとりあえず受付に行って看護師さんに声をかけた。
一瞬、看護師さんに驚きの表情が浮かんだのを俺は見逃さなかった。でも俺の質問はいたって普通。
ならどこに驚く要素があったのか?それはきっと俺の声だと思う。いや、100%。
俺は男子高校生にして超!ハイトーンボイスなのである!
変声期はどうしたのかって?んなもん知らん。よくそうやって聞かれるけど自分自身でも原因は分からない。どうやら俺には変声期というものとは関係ないらしい。でも、俺は結構気に入ってるんだよな。この声。
その後、俺は教えてもらったばあちゃんの病室へと向かった。
琴瑶 咲子という名前があるのを確認してから中に入る。
ばあちゃんの病室は四つベッドが置いてある大部屋だった。
俺はばあちゃんのベッドの周りにあったカーテンを開けた。
俺を優しく出迎えてくれるばあちゃん。元気そうだ。
昔、じいちゃんも入院したことがあったから病院は結構慣れてる。なんか複雑だけど。
俺がOKするとばあちゃんは嬉しそうに笑った。ばあちゃんは俺の声が好きだと何回も言ってくれる。
小さな声で歌い始める。
僕が今回選んだ曲は「僕のこと」。
ゆったりした曲だからばあちゃんでも聴き取りやすいかと思って選んだ。
それから5分後。
病室にいた全ての人が俺の歌に耳を傾けていた。
最後まで歌い終わってばあちゃんを見るとニコニコと笑っていた。
周りの人も次々と俺を褒めてくれる。これはこれで気持ちがいい。
だけど途中からついていけなくなって、時間も時間だし俺は帰ることにした。
軽くなった袋を持って廊下を歩く。また来た時は何を歌おうかな?
俺の頭の中はまだ音楽でいっぱいだった。
〜♪
するとどこからかギターの音が聞こえてきた。
あたりを見回すと少しドアが開いた病室から聞こえているみたいだった。
病院でギター?俺は気になってその病室を除いてみた。
中にはベッドの上に座った俺と同い年くらい女の子がギターを弾いていた。それもアコギ。
俺は少し身を乗り出した。するとその女の子とバッチリ目があってしまった。
その女の子が声をあげる。
これは...ちょっとヤバいかも...?
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!