あなた side
第1スタジオ。
大きな鏡の前でひとり、何度も何度も踊っている。
何曲も踊ったあと、
思わず床に手をついてしまった。
完璧を求めすぎてつい、
自分の限界を超えてまでも踊り続けてしまう。
それが昔からの癖。
床に寝転がり、
大きく息を吸ってみる。
今、この瞬間だけは、
何もかも、忘れられるんだ。
ツイッターで、“吉川あなた”と調べれば、
一番に出てくるのは誹謗中傷。
私のこと、よく書いてくれる人もいれば、
誹謗中傷は、それの何倍もある。
覚悟してたもん、それくらい。
HIROさんにも、
"EXILETRIBEの一員となった分、世間の声は何倍にも厳しくなる"
と、デビューする時に言われた。
それでもHIROさんは、
私をFANTASTICSのメンバーにしてくれた。
"強くならないと"って思ってるけど、
どうすればいいのか、分からなくて。
涙ばかり出てしまう。
優しさに溢れた夏喜の顔を見たら、
もっと泣いてしまいそうな気がして。
ギュッと俯いた。
バタン、とスタジオを出てった。
…こんな自分大っ嫌い。
素直になれない自分の苛立ちを夏喜にぶつけて。
夏喜は悪くないのに。
夏喜が居なくなったスタジオの中でひとり、
ただただ後悔が募っていくばかりだった。
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。