第12話

天使の微笑み⑫北山→藤ヶ谷side
379
2020/06/04 05:24
この日、仕事から帰って来た藤ヶ谷は一目見て分かるほど機嫌が悪く全身からピリピリ感を漂わせていた。

北山
…おか‥えり…


いつもなら、玄関へ迎えに出ると笑みを浮かべ頭を撫でてくれるのに今日は黙って何も言わず俺の横を通り過ぎるとサッさと部屋の中へ入ってしまい。

(えっ?俺、どうしたらいいわけ)

仕方なく自分も部屋へ戻って困惑していたら暫くし
ガチャ、風呂上がりなのかガウンだけを羽織ったまま俺のところへ来て。

藤ヶ谷
風呂、まだなんだろ?
北山
あ、うん
藤ヶ谷
早く入って来い


(なんかあったのかな?)

藤ヶ谷
で、シャツ1枚だけを着て待って
いるんだ、分かっているだろうが
パンツも履くな


バタン!

「でも、する気なんだ」その言葉が、そうである事を示していた「今夜の藤ヶ谷はなんだか恐い」ふと嫌な予感が脳裏を過ぎる、そして…それは的中してしまう事となる。

風呂上がり脱衣所で俺は鏡の前に立ち、そこに映っている全裸の自分を見てここへ初めて連れて来られた日のことを思い出していた。

(数週間前までは思ってもみなかったっけ、いくら
借金のためとは言え自分が男に抱かれる事になる
だなんて)

藤ヶ谷
その身体、抱くごとに1回50万
払ってやる


(くっ…)

言われた通り素肌に白いYシャツ1枚だけを羽織った俺は、思わず洗面台へ両手をつき俯いてしまう。
(だって…よ‥借金を完済するまで、お前は俺のもんと言われているようなもんじゃん)

ギュッと震えだした身体を自分の両手で包み込み。

北山
ううっ…


(それだけの関係なんて、あまりにも虚しすぎる…クッ)
周りの連中の話を聞けば聞くほど自分が惨めに思えてならず。

北山
もっ、限界だ


そのときだった。

藤ヶ谷
いつまで時間が掛かっている、お前


ハッと前を向けば、大きな鏡に映し出された険しい表情の藤ヶ谷。

藤ヶ谷
こんな事なら、一緒に入ればよかった


とたん両腕を掴まれたかと思ったら。

北山
あっ、なに!?


洗面台へ身体ごと押しつけられてしまい。

藤ヶ谷
浴室の中でやったら、お前がどんなに必死で声を押し殺していてもいい感じで響くんだろうしな、ふっ


挙げ句そう言った瞬間から俺の胸を後ろから、まさぐり始め。

北山
…っ、ビクン‥放…せ


(ここでするのは嫌なんだ)

藤ヶ谷
ダメだね、もう待ってはやらない


そのまま手が尻へと触れたのを感じると同時に前をも扱かれ途端に。

北山
ああんっ


俺は今までにない女みたいな声を出してしまい。

北山
なっ…なんだわ‥今の…声‥嘘っ…俺の‥


思わず手で口を抑えたら、後ろから藤ヶ谷が覗き込むようにして耳元で囁く。

藤ヶ谷
隠すなって本当は凄く感じてるんだろ
いい加減、素直に認めてしまえって
北山
ちっ、違っ…
藤ヶ谷
だったら見せてやるよ


グイッと、今度は俯いていた顎を持ち上げられると「ハッ」目の前の鏡に映った自分の姿を見た瞬間に身体が小刻みに震え。

藤ヶ谷
目を反らすんじゃない
ちゃんと見ていろ
北山
やっ…クッ
藤ヶ谷
自分が、どんな表情で俺に
抱かれているのか
北山
くっ…うっ‥よし…てくれ
藤ヶ谷
その眼で見るんだ
北山
やっ…め‥やっ…あっはっ‥あっ…
あっあっ、うっあぁーっ


こいつの舌が尻の穴を舐め、ほじくり手は前を扱き続け。

北山
やっ…だ‥んな…の‥あぁ…ビクンビクン


視界には、それに悶えている自分がいて「おかしくなっちまう、クッ」

北山
あはっ…もっ‥つはっ…ダメっ‥だ…
あっ‥で…る‥あっあはっ…あっあっ
だっ‥めっ…ああっ


が、そのとき。

藤ヶ谷
誰が勝手にイッていいと言った


ギュッと、その手が俺のを握り締め寸止めされ振り向くと床にドカッと座り込んでる藤ヶ谷の姿が見え

藤ヶ谷
いつも言っているだろ?こういう時はなんて言うんだっけ?ふっ
北山
あっ、ハァハァハァ
藤ヶ谷
ほら、お願いしてみな
北山
くっ
藤ヶ谷
ちゃんと教えてやったはずじゃん
北山
うっ


「今日は絶対に言わせてやる」

北山
はぁ…はぁ‥あぁ‥


藤ヶ谷の眼が、そう言っているのが分かった。

藤ヶ谷
で、どうする?


俺は、もう逆らえないと悟り俯き加減に身体を震わせ傍へ近づくと、その首へ腕を回し抱きつき耳元で言葉を発した。

北山
おっ…願い‥だ‥クッ
藤ヶ谷
それから?
北山
イ…カ‥せて…くれ


(終わりだ、もう何もかも)

北山
くっ…ヒクッ‥うぅ
藤ヶ谷
出来たじゃん、いい仔、ニコッ


ギュッっと抱きしめられ、自分が自分でなくなって行く。

藤ヶ谷
思いっきりイカせてやるから、ふっ


ズブブブッ、挿入された藤ヶ谷のシンボル。

北山
つああぁーっ


壊れた先には、いったい何が待っているのか。

(なぁ?教えてくれよ、こんな事を続けてなんの意味があるっていうんだ俺達に、クッ)

その腕に抱かれながら涙が止めどもなく流れ落ちる苦しいまでに胸を締めつけ、押し寄せてくる快感と共に崩れてくのを感じながら俺は堕ちて行く自分を自覚していた逃れることが出来ない、その中へと。

(あぁ、どうしたらいい半端なく気持ちがいいんだ)
ヌプッ、ヌチャ!

北山
あっはっ、あぁ、あっ、ああぁーっ


座ったままの藤ヶ谷の膝の上で俺は、後ろから抱え込まれるように挿入され持ち上げられた両足はしっかりその手で掴まれてしまっていてさ。

北山
はうっ、あっ、んっ、あくぅーっ


物凄い勢いで下から突き上げられていた、ズンズンズン!

藤ヶ谷
すっげぇ~マジで凄い締めつけだ
自分で分かっているか
北山
んあっ、あっはっ、ひっ、あぁ
うああっ


グチュ、グチュン、そして頭の中はもうぐちゃくちゃで何も考えられなくなってしまっていて。

藤ヶ谷
ほら、もっと感じ乱れてしまえ見えているんだろ?その姿が自分の眼の中に


(あぁ…見える‥見えている…)

北山
ふあああっ、やっあっ
あぁーっ、ビクンビクン


(まるで女みたいに乱れている自分が、くっ)
とたん更に押し寄せる快感「でも怖い、やっぱ、
んなのは嫌だ」

北山
んああっ、ひっあっ、あぁ、あぁーっ


(狂う、もっ…狂っちまうよ)

藤ヶ谷
腰だって自分で振っているんだ


(んなバカな…でも‥)

北山
はっ、うっ、ああっ、あっあっ
ああっ


確かに動いている、気がつけば藤ヶ谷は足から手を離し俺の身体を動かすのをやめていてその手は胸を愛撫し。

(そっ…そんな‥嘘だろ!?俺は自分から快感を貪っているっていうの)

思った瞬間に、ビクンと身体が跳ね上がり頭の中が真っ白になったかと思うと。

北山
うっあっあぁー出る、出てるうぅーっ


自分のそこから白い液体が扱いてもいないのに次から次へ溢れ出し。

北山
あぁ…あぁ‥ビクンビクン…だ‥め…だ‥あぁ


(止まらない誰か止めてくれ~やだ、やっ、凄く気持ち、いっ、堪ら…ね…)

藤ヶ谷
初トコロデンか、ふっ


(えっ、なんだよそれ?分からないって)

藤ヶ谷
ここまで来れば、もう病みつきに
なってしまう
北山
なっ、ああぁ
藤ヶ谷
ふっ


このとき、ニヤッと笑った藤ヶ谷の顔を俺は忘れはしない何故だか嬉しそうに見え。それからは、もう自分でも何を言っているのか分からないほど叫びまくっていた。

数分後、藤ヶ谷は俺を抱き上げ部屋へと連れて行きベットの上へ寝かせると。

藤ヶ谷
ほら今日の分


お約束の如く50万円の札をバラまいて俺は、ただ虚ろな瞳でその光景を見つめていたんだ。

藤ヶ谷
痛いのか?
北山
えっ、あ、いや
藤ヶ谷
そっ、なら良かった


そう言って抱きしめながら。

藤ヶ谷
でも優しくしてるだろ?お前も
けっこう慣れて来たみたいだし
北山
‥‥‥
藤ヶ谷
それに、これで分かったんじゃない
北山
なに…を‥
藤ヶ谷
自分がどんな顔で俺に抱かれてるのか


が、その言葉を聞いた瞬間に俺の中で何かが爆発し

北山
よしてくれ!


側で散らばってるお札を手で掴み投げつけてしまい

北山
そんな…こと‥あるわけ…男‥なのに
…そんな‥
藤ヶ谷
お前…


認めたくないと心が叫ぶ。

北山
お願いだ…バイトでも‥なんでも
するから…クッ
藤ヶ谷
‥‥‥
北山
それで返せばいいんだろ…だから‥
もう…お金の為に‥んな事‥するの
…うっうっ、ヒクッ


(嫌なんだ頼むから、これ以上俺を壊さないでくれ)

藤ヶ谷
時給の相場がいくらか知っているか?
北山
ヒクツ…うっ
藤ヶ谷
死体を洗おうが風俗で働こうが
俺と寝る以上には稼げない
北山
それ…でも‥


しかし…

藤ヶ谷
分かった少し待ってろ、すぐ戻るから


このとき藤ヶ谷が苦渋の表情をしていたことに俺は気づかなかった。

藤ヶ谷
お前は着替えを済ませとけ
北山
はっ?
藤ヶ谷
出かけることになると思うから


(今から?)

そう言われるまで下を向いててその顔を見ていなかったから、そして数分後部屋に戻って来たこいつは

藤ヶ谷
話しはつけて来た
北山
どういう?
藤ヶ谷
仕事を紹介してやるって
言っているんだよ
北山
えっ
藤ヶ谷
これから、そいつに会いに行く
着いて来い


向かった先は某高級ホテル、でもそこで待っていたのは思いもかけない奴だった。それは混乱し自分を見失いそうになっている俺を藤ヶ谷が、なんとかしようとした苦肉の策であったことを後になって知る

けど逆に事が起きてしまうキッカケともなり、そこで初めて俺は気づく事になる自分の中にあった彼奴への想いをピンチに見舞われて。




・藤ヶ谷side

(泣かせてしまった俺はやり方が間違っていたのか?どんな形であれ一緒に暮らし肌を重ね合わせていれば北山も、そのうちに馴染んでくれるものと思っていたのに)

が、あそこまで感じていながらもそれでもなお認めず拒み続ける姿に心が痛む護りたかった笑顔でさえ自分の手で消してしまっている気がし。

トルルル~

河合
もしもし太輔?
藤ヶ谷
悪いな大変なときに
河合
何かあった?
藤ヶ谷
お前に頼みたいことがある
河合
‥‥っ


俺は、あることを決心し郁人に電話をした。

河合
お前マジで言っているの?
そんな事をしたら
藤ヶ谷
いいんだ
河合
よくねぇ完璧、嫌われてしまうぞ
藤ヶ谷
なぁ~郁人
河合
なんだよ?
藤ヶ谷
俺って酷い男だよな
河合
なに弱気なことをらしくねぇじゃん
藤ヶ谷
ふっ


(塚ちゃんのことで苛ついていた、そんなこと言い訳にもならない。だが、あいつが何かに巻き込まれているとしたら間違いなく原因は俺)

そう思うと…

「追い詰めるつもりなんてなかったんだ」ただ沸き上がって来るどうしようもない感情に押しつぶされそうになり、ぶつけてしまった。

(情けねぇ話し)

金で買って縛りつけている奴に救いを求めてしまった自分が「受け入れてもらえたら、その笑顔で癒してくれたなら俺は気持ちを切り替え頑張ることができる」そんな甘え今のあいつに持っちゃいけなかったのに。

(何を期待していたんだよ俺は、バッカじゃねマジで呆れてしまう)

河合
で、もし北山が了解したら
やらせるつもりか?
藤ヶ谷
あいつはそんなことはしねぇよ


(俺とだってヤるのが嫌で堪らないんだ、ましてや
見ず知らずの男となんか出来るわけがない)

河合
じゃ嫌がるのが分かっていて、それを勧めるっていうんだな?
藤ヶ谷
あぁ
河合
意図は?
藤ヶ谷
‥‥‥
河合
言わないなら協力してやらないぞ
藤ヶ谷
ふっ、分かったよ


1つは…

藤ヶ谷
あいつは今、自分に混乱して
しまっている


そうしたのは俺だけど。

藤ヶ谷
でもって抜け出したくて
もがいているってわけ
河合
そこから救ってやりたい?だったら
藤ヶ谷
俺が言うんじゃダメなんだ自分で
決めさせなければ意味がない
河合
なるほど、どうすればいいかを気づかせる為だがもしかしたらそれで太輔との関係の方を選ぶかもしれないじゃん
藤ヶ谷
2つ目の理由はそれなんだが
河合
んっ?


(まず望みは薄いだろ)

河合
聞いていいか?
藤ヶ谷
なに?
河合
どっちも拒んだら太輔お前は
どうするつもりなんだよ?
藤ヶ谷
ふっ
河合
自由にしてやる気なんじゃない?
藤ヶ谷
手放したくないっていうのは
俺のエゴでしかないから
河合
いいのか、それで?
藤ヶ谷
あんな彼奴を見ている方が辛いし
河合
太輔…


(戻してやりたいんだ俺が奪ってしまった天使のような笑顔を)

河合
分かった、そこまで決心しているなら俺も悪役の片棒をかついでやるよ
藤ヶ谷
すまない郁人、嫌な思いさせてしまう
河合
いいってことさ気にすんな、ふっ
藤ヶ谷
あぁ
河合
でも、どう言って自由にする気だ?
藤ヶ谷
方法はいくらでもある
河合
五関の店で住み込みで働かせるとか
藤ヶ谷
‥‥‥
河合
嘘うそ冗談だって


(お前が言うと、そうは聞こえないんだよ)

藤ヶ谷
知り合いにプロダクションを経営している奴がいて、かなり大きなところだから有名人もいっぱいいる
河合
うおっ、それいいじゃん彼奴なら可愛いしすぐ売れるぞ
藤ヶ谷
そこが借金を肩代わりしてくれ芸能界にデビューさせてくれるから、こんな金アッという間に返せる、そう言えば
河合
いい考えじゃね、ふっ


俺の傍にいたくないって言うのなら仕方がない最大の目的はそれだった彼奴の本心を知りたくて

(まっ、もとは無理強いしてここに居させているんだから答えは分かっていたんだけどな)

だから俺に出来る最後の小芝居だったんだ、あいつへの自分がしてしまった事への償いとして。




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