ジニーの言葉を聞き、全員の視線がハリーへと向く。
皆からすれば、"スネイプ先生にハリーの居場所がバレたのは不味い"そう焦りたくなる状況だからだろう。
ハリーは、何かを考え込むように口を噤んだ。
皆が焦りの色を浮かべる中、この状況で冷静なままでいるのは、きっと私だけだろう。
欲を言えば『先生は味方よ』なんて勝手な事を今この場で言ってしまいたかったが、そんな事しても誰も信じないだろうし、先生もそんな事は望んでいない。
なら、私がするべきなのは…きっと、誰にもバレぬようにハリー達や騎士団の皆を城内に引き入れる事だろう。
私の言葉を聞いた皆が、不安からかザワめき始める。
確かに、自分でも突拍子も無いことを言っていることは理解していた。だけど、多分今はこれが最善策だ。
相手はスネイプ先生。危険な可能性はないとは思うが、カロー兄妹もいる手前、完全に安全だとは断定できない。私は、様子を伺いながらハリーに視線を向けた。
その後すぐに、私の予想通り全校生徒と教授達が大広間へ集められた。ハリーもグリフィンドールの生徒として、バレること無く 列に潜り込ませる事に成功した。
静まり返った大広間に、スネイプ先生の足音と声だけが広がり続け、殆どの寮生や他の教授達はスネイプ先生の一挙一動に少しばかり怯えているようだった。
大半の生徒がそう告げている先生から目を逸らしている中、私は真っ直ぐにスネイプ先生に視線を向けていた。
しかし、私の視線に気付いているはずの先生は、わざと私とは一切目を合わさずに、次々に言葉を並べた。
スネイプ先生がそこまで言い終えると、予定していたよりも少し早く、ハリーが列から抜け出しスネイプ先生の前に立ちはだかった。
ハリーの存在に気がついていなかった生徒達が息を飲み
教授達も皆 目を丸くした。スネイプ先生も動揺の色を見せずとも、表情が瞬時に変わっていた。
ハリーは、スネイプ先生の事を見据えながらそう告げた。そして、固く閉ざされていたはずの大広間の扉が音を立てて開き、騎士団の皆が姿を見せる。
ハリーの言葉を耳にしながら、私はギュッと強く拳を握った。本当なら、今すぐにでも前に出てハリーの言葉を否定したかった。だけど、スネイプ先生と約束を交わした手前、そんな事は出来なかった。
だから、私は事の成り行きを黙って見届けた。
スネイプ先生は、ハリーの言葉を聞き終えると弁明する訳でもなく、ただハリーを見つめながら杖を抜いた。
すると、マクゴナガル先生がいち早くハリーを庇うように前に立ち、同じく杖を抜いてスネイプ先生に向けた。
だが、マクゴナガル先生がハリーや他の生徒を守る為にスネイプ先生に攻撃をする中、スネイプ先生は防御をするばかりで攻撃はせず、流れた呪文を受けて倒れたカロー兄妹の上を通って、そのままその場を後にした。
逃げ去ったスネイプ先生に向かって、そう叫ぶマクゴナガル先生の声が大広間に響くと共に、生徒達の熱い歓声がそれをかき消す勢いで大きく広がっていく。
しかし私は、そんな歓声なんて上げられなかった。
作戦は、確かに無事成功した。
だけど、私の心には表しきれぬ罪悪感が漂っていた。
歓声も上げず、一人佇んでいるとジニーからかけられた心配の声に、ふと我に返る。
ジニーに返事を返そうと、俯いていた顔を上げた瞬間
大広間には不穏な空気が漂い始め、あちらこちらから先程とは全く違う、生徒の辛そうな悲鳴が響いた。
そして次の瞬間には、耳に入れるのも恐ろしげな声が
まるで傍で語り掛けているかのように聞こえ始めた。
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。
登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。