ラブグッドが連れてこられてから数日後
僕は、部屋にいた所を母上に呼び出された。
そして、母上に連れられるまま、そこに向かえば…
人攫いに拘束されている、ウィーズリーとグレンジャー
そして、ベラトリックスに跪かされている男がいた。
その男の額には、随分と見慣れた傷跡があり、全員がそいつをハリー・ポッターだと疑っているようだった。
しかし、その場にいた人攫いもベラトリックスも…
額の傷跡だけでは、その男がハリー・ポッターであると断定出来なかったらしく、"闇の帝王"に差し出す前に、確認するため同級生である僕がその場に呼ばれたのだ。
ベラトリックスは、僕の顔と男の顔を交互に見るなり
ニヤリと何処か期待を込めた笑みを浮かべた。
それもその筈だ。ずっと付け狙っていたポッターを捕まえられたのかもしれないのだから。
僕は、視線をベラトリックスから離し、目の前の男に視線を移した。
男は、原型が分からぬほどに顔が酷く腫れ上がっていたが、一緒に捕まったのがウィーズリーとグレンジャーである事。そして、僕の入学当初からの記憶が正しければ、目の前に跪くこの男が "ハリー・ポッター" である事に間違いはなかった。
もしここで、この男をハリー・ポッターだと断定すれば
すぐ様闇の帝王がこの場に呼ばれ、そして…こいつは…
ほんの数年前の僕なら、どうしていただろうか?
マルフォイ家の為、そして何より敵視していたポッターのよりも優位に立てることを望み、喜んで差し出していたかもしれない。
あるいは、自分は巻き込まれないように…と今のように知らぬ振りをしていた可能性もある。
ただ、今の僕は…そんな昔の自分が抱きそうな下らない感情などには支配されなかった。
僕は、自分が危険になるかもしれないとわかっていながらも、あえて分からぬ振りをした。
もちろん。それは全て、あなたの為だった。
闇の帝王を倒す手立ては、きっとポッターしか残っていない。彼女を守る為にも、ポッターを差し出す訳にはいかなかった。それに、こいつは 友…あなたにとって大切な友人だ。
だから、今僕がするべき事はこいつがハリー・ポッターだとバレぬように出来るだけ時間を稼ぐ事だと勝手ながらに判断した。
父上の震えた微かに冷たい手が、僕の後ろ首を掴む。
闇の帝王が復活してからというもの、マルフォイ家の地位は落ちる所まで落ちてしまった。きっと、ポッターを闇の帝王に差し出す事で、今までの数々の失敗の挽回をしようとしているのだろう。
だが、今の僕にとっては家の地位など…どうでもいい。
父上の言動から、今の状況にかなり焦りと不安を抱いてる事はすぐにわかった。
父上はここ最近、憔悴しきっていた。
マルフォイ家らしい振る舞いをしつつも、常に何かに怯えているようだった。そんな父上の様子をわかっていながらも、助けようとしないのは、息子としては失格かもしれない。
しかし、父上に認められようと必死になる幼かった頃の僕はとは違い、目の前の男がポッターであると断言する気は、今の僕にはさらさらなかった。
ベラトリックスはそう言い僕の手を引いた。
近づかなくとも、答えなど明白だが…もしかしたら、ポッターと会話をするチャンスがあるかもしれない。
そう思った僕は、ベラトリックスに手を引かれるまま跪くポッターへと近づき、その前で自らも膝をついた。
ポッターは言葉を発すること無く、辛うじて見える片目で僕の顔をじっと見つめた。
殆ど変わり果てたポッターの顔を見ながらそう呟く。
その間も、ポッターは僕を真っ直ぐ見つめ続けていた。
そう言うと、ベラトリックスはポッターの元を離れ
グレンジャーの方へと足を進めた。
ポッターと話すなら、今しかない。
ポッターにしか聞こえぬ程の小声でそう話しかける。
すると、ポッターは片目を一瞬見開き、小さく頷いた。
やはり、あなたはホグワーツに残ったのか。
なら、命が取られてる事はないだろう。
ようやく彼女の安否を聞く事が出来て、僕はずっと張り詰めていた1本の糸が切れたように深い息を吐き出した。
ポッターの言葉に、僕は思わず黙り込んだ。
"あなたが僕を待ってる?あんな事をした僕を?"
殆ど放心状態のままポッターの前に居続けていると
母上に肩を優しく叩かれ、僕は我に返った。
何も言わず、ただ目線を合わせたままポッターの元を静かに離れる。ポッターのやけに真剣な目は、何か別な理由があって嘘をついているようには見えなかった。
だからこそ、彼女は僕に会いたくないはず。そう確信していたにも関わらず、ポッターのこの言葉によって、僕の心には酷く迷いが生じた。
会ってもいいのだろうか…彼女に……
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!