第197話

愛と嘘の結末… 52
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2023/06/05 14:00





一時休戦となり、静けさを帯びたホグワーツ。
僕は、そこをただ1人で歩いていた。

足を動かす度に、城の破片が靴へと当たる。
瓦礫が散乱する城は、最早 昔の様な輝きは無かった。

何処かで生まれた虚しさが僕の心を支配する。

いや、こんな感情になる権利きっと僕には無いだろう。
僕は、どちらかと言えば破壊した側の人間だ。


入学し、父上から聞いていた城を目にして圧倒された。
生徒が大勢入る大広間に、落ち着くスリザリンの寮。
有意義な授業とつまらない授業を受けた教室。
多くの試合をした競技場。"彼女"が応援にきた観客席。
"彼女"と木の陰に座り、話を交わした中庭。
"彼女"と共に並んで歩いた廊下。


あなたとの思い出が詰まった学校を、ホグワーツを…
僕は、壊してしまったのだ。


僕は結局、傷つけ壊しただけで何も出来ていなかった。
無力な自分に、呆れと嫌悪の感情が生まれる。

そんな暗い感情の中で唯一の光が射し込んでいるとすれば、"あの時"咄嗟の行動であなたを助けられた事くらいだろう。

僕の力じゃなく、ただ運が良かっただけだと思う。
でも、それで良かった。運が悪かったら助けられなかったのだから、自然と体が動き 呪文がたまたま当たってくれて良かったのだ。


罪滅ぼしになんてならないが、彼女を散々傷つけてきた僕にとっては、そこで彼女を助けられたのがせめてもの救いだった。

ドラコ・マルフォイ
ドラコ・マルフォイ
…………


"あなたはホグワーツで君を待ってる"


そう僕に告げたポッターの言葉が、ふと脳裏をよぎる。

会ってもいいのだろうか…?そんな事を思い、微かな希望を胸にホグワーツに来てみたが、僕はここに来た途端…彼女に会うのが怖くなった。だから、彼女を助けた瞬間、僕は直ぐにその場を去ったのだ。

会いたい気持ちは痛い程ある。ただ、会うべきでないようにも思えた。仮に彼女が本当に待ってくれていたとしても、僕はそんな彼女に何も出来ない。

例え戦いが終わった後でも、傍に居ることは出来ないし居る権利も僕には無い。幸せにだって出来はしない。


そんな僕が、もう一度彼女に会う事が許されるのかと…


戦いが終わるまで、多分彼女にはもう会えない。

ならそれでも僕はいいと思っていた。彼女にもう一度会ってしまえば、僕はきっと離れたくない感情が勝ってしまう。そんなの、彼女にとってもよくない。

戦いが終われば、どんな結果でも…僕はあなたの傍を離れる。その方があなたも安全で幸せな生活を送れるに決まっているから。
ドラコ・マルフォイ
ドラコ・マルフォイ
…いいんだ……これで…

気持ちは伝えたかった。
例え拒まれても、「愛してる」と本当の事を。

でも、そんな望みを抱くのは無駄だ。

もうあなたに会えないのなら…
最後くらい、僕の手で守れてよかった。


僕は、そう自分に言い聞かせる事にした。

………?
ここにいたのね…
大広間にいないから少し探したのよ
突然後ろから聞こえた声に、僕は思わず硬直した。

その声が僕の耳を通り抜けた瞬間、僕の心は意図も簡単に跳ね上がった。嬉しさなのか動揺なのか…そんなものは分からなかったが、自分自身に聞こてるほど煩い心臓は、冷えきっていた僕の体を瞬く間に熱くした。


"会えない"そう思っていた人物の声が聞こえた方へ
僕は漸く振り返り、その人物を視界に映す。
あなた
無事でよかった…
そう言って微笑むあなたを視界に入れた僕は、言葉で表せぬ様々な感情が押し寄せ、心臓も一層苦しくなった。

今すぐにでも抱き寄せたい。そんな思いが強くなったが
僕はその気持ちに蓋をするように必死に心の中で押さえ込んだ。

あなたは何の言葉も発さない僕を気にする素振りはなく、僕に1歩2歩と近づいた。その時、彼女の服についた血痕が目に入った。"どこで怪我をしたんだ、一体誰に…"なんて心配の感情が心に浮かび、先程の感情よりも勝る強さになった。

自然と顔が怖ばり、彼女がどこを怪我しているのかと視線を動かす。すると目の前の彼女がふっ…と笑った。
あなた
安心して、私の血じゃないわ
ドラコ・マルフォイ
ドラコ・マルフォイ
ッ…いや……
そう言われ、僕は咄嗟に彼女から視線を逸らした。
『そうか…』なんて、素っ気なくも返せばいいのに、僕は心配していないかのような素振りを見せたのだ。

だが、そんな僕の反応をあなたはまたも気にする事無く「ねぇ…」と先程よりも声のトーンを落として口を開いた。僕は、自然と彼女に視線を戻す。
あなた
どうして助けてくれたの?
あなたからの問い掛けに、喉元で息が止まる。
あの場から逃げ出した時、呼び止められた気はしていた。だが、あなたが本当に気がついていたとは…

前にも、似た質問をされた気がする…そう思いながら、どう答えるか迷った僕は、口を噤んだままでいた。
あなた
もしかしたら…
自分が危険になったかもしれないのに
あなた
どうして、私を助けてくれたの?
あなた
ねぇ…ドラコッ
ドラコ・マルフォイ
ドラコ・マルフォイ
体が勝手に、動いたんだ…
バレているなら仕方がない。そう思い、僕は躊躇いながらもそう彼女に告げた。

嘘ではなかった。危険が迫る彼女の姿を見た瞬間、僕は自然と杖を構えていたし、多分頭で考えるよりも先に口が呪文を唱えていた。

僕の言葉を聞いた後、あなたは僅かに目を見開いてから再び頬を緩ませ、僕の事を見つめた。
あなた
なんだか、私みたいな事言うのね…
あなた
でも、私の事を助けるなんて…
"嫌い"なんじゃ無かった?私の事…
あなたにそう言われ、僕の心は強く締め付けられた。

"嫌い"なんて、ただの1度も思った事は無い。
でも、僕が発してきた"偽り"の言葉の数々は、僕が彼女を嫌っていると思わせるのには充分だった。

そして、恐らく…あなたを傷付けるのにも十分すぎた。それに加え、僕は1度ならず何度だって冷たい言葉を吐き捨て、彼女を傷つけ続けてきた。

それであなたが僕を嫌いになってくれれば、離れてくれれば…と。でも、今目の前にいるあなたは、少なくとも僕を嫌っていそうな素振りなんて見せていなかった。


寧ろ、僕を目の前に何処か安心している表情を浮べ
答えを待つように、僕の瞳を黙って見つめ続けていた。


そんなあなたの瞳に見つめられていれば、もうこれ以上…彼女を傷付けたくない。という感情に駆られた。

どうせこの戦いも終わりに近い。つまりは、彼女から本当に離れる日も近いんだ。なら、"嘘"なんてつき付ける必要は無いんじゃないか…?例え、もう彼女が僕を好いていなかったとしても…。


どうせ彼女に会うのが、今で最後なら…

ドラコ・マルフォイ
ドラコ・マルフォイ
嫌ってなんかない…
そう思った事なんて、1度もない
ドラコ・マルフォイ
ドラコ・マルフォイ
あなたを巻き込みたくなかっただけだ…
ドラコ・マルフォイ
ドラコ・マルフォイ
ずっと、変わらず愛してる…

僕は、あなたの瞳を見つめながら"嘘"の言葉ではなく
ずっと思い続けていたあなたへの"愛"の言葉を伝えた。






















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今回のお話は、皆さんが待ち望んでいた内容ではないでしょうか?😌

漸く、あなたちゃんとドラコが再開し…ドラコはずっと思っていた本当の気持ちを打ち明ける事が出来ました‪ 𓈒𓏸


さて、本日はそんなドラコのお誕生日ですね🍏🪄
もう40代の彼は、立派な父親として幸せに暮らしていることでしょう🍀*゜

♥𓏸𓈒𓂃𝙷𝙰𝙿𝙿𝚈 𝙱𝙸𝚁𝚃𝙷𝙳𝙰𝚈 𓂃◌𓈒♥
𓈒𓏸𓐍 Draco Malfoy𓈒𓏸𓐍

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