必要の部屋の隅に座り、彼の写真を見つめていると
ネビルが優しく微笑みながら、私の隣に腰を下ろした。
その時、反射的ではあるが 私は後ろめたいものを隠す子供のように、写真を胸元まで引き寄せようとした。
ネビルは、私の行動を不快に思う様子もなく
むしろ、少しからかうように私の顔を覗いて笑った。
私もそれに、薄らとした笑みを返す。
ネビルはそう言うと、気遣わしげな表情を浮かべながら
私のことを見つめ、首を傾げた。
私が再び、彼の写真を見つめながらそう言うと
ネビルは小さく「そっか」と呟いて頷いた。
そこまで言いかけて、私は言葉を詰まらせた。
例の一件以降、ドラコが死喰い人であるという事は大半の生徒が認知していた。しかしそれでも、ダンブルドア軍団が集まるこの必要の部屋で"死喰い人"なんて名前を出せば、視線が集まるに違いない。
そう考えてる私に気が付いたのか、ネビルは『言わなくていいよ』とでも言うように少し微笑むと、言葉を選ぶようにして口を開いた。
そう、彼から『望んで死喰い人になったわけじゃない』
なんて台詞は、ただの1度も聞いたことはない。
それでも私は"彼は望んでいない"そう信じている。
だけど、そんな根拠もない私の考えを全員が信じてくれているわけが無いと、私はそう思っている。
あの頃のハリーがそうであったように。
確かにドラコは変わった。だけど、今ネビルがそんな事を話し出すと思っていなかった私は、唐突に発せられたネビルのその言葉に、1度小さく声を漏らすと、眉を顰めて首を傾げた。
初耳だった。ハーマイオニーに謝る時は、私もその場に一緒にいたけど、まさかネビルにもちゃんと謝っていたなんて…
3年生の頃、1度注意した時は「からかってただけさ」
なんて、謝る気もなさそうに不貞腐れていたくせに…
自分のした事を謝るのは、別に褒められた事じゃないけど、私の知らない所での彼の行動に思わず顔が綻ぶ。
ネビルは、真っ直ぐな視線でそう言い終えると途端に「励ましになってるかな…」と不安げに小さく呟いた。
この1年で十分に着いた自信はどこにいったのか…と
私は、少しだけ笑みを零す。
確かに、ネビルの言う通り 7年生になってからは皆と何気ない話を出来るようになったし、噂話も罵倒の声も耳にする事は一切無くなっていた。
単なる環境の変化。そうも考えられるが、今のようにネビルやルーナが私にごく普通に話しかけてくれていた事が、1番大きいと私はそう思っている。
そう言ってネビルに微笑むと、私はまた写真に視線を落とした。写真の中のドラコは、ちょっとだけ恥ずかしそうに、はにかんだ笑顔を浮かべていた。
あまり写真を好まなかったドラコ。
だけど、これに写ってる彼は満更でもなさそうで…
とても幸せそうな姿に、私は少し笑みを零した。
だけど、この彼の笑顔を暫く見れていない。そう思ったら、上がったはずの口角も徐々に下がっていった。
この殺伐とした戦いが終われば…
また彼の、こんな笑顔が見れるだろうか。
写真を静かにしまいながら、私はネビルにそんな事を問いかけた。すると、予想外だったのかネビルは少し不思議そうな表情を浮かべた後、何か考えるような素振りを見せた。
ネビルは真剣な眼差しで、一点を見つめてそう言った。
その視線の先はただの床だったが、ネビルは瞳の奥で誰かの事を思い浮かべているようで、私はその相手が誰なのか、すぐに見当がついた。
ネビルのご両親は、今も聖マンゴに入院し続けている。
未だ、ネビルの事を息子だと認識する素振りは無いと言うが、ネビルがご両親を愛しているように、ご両親もまたネビルを愛しているし、幸せを願っているはずだ。
ネビルは、私の言葉に笑みを零すと静かに頷いた。
ネビルは、少しだけふざけ混じりにそんな事を言うと私に向かって優しく笑った。だけど、そのすぐ後には、私の瞳を見つめたまま、少しだけ声のトーンを落として私にある事を問いかけた。
私がそう聞き返すとネビルは、『わかってるでしょ?』とでも言うように僅かに悪戯な笑みを浮かべた。
私は敢えて、笑みを混じえてそう言った。
私が今1番願っている未来、いや、叶えるべき未来は…
前までのように、ドラコと共に過ごす事。
そして出来ることなら、幸せに平穏に彼と過ごしたい。
それは、きっと何があっても変わらない。
ネビルは、私から明確な答えを聞かずとも私の言葉が何を指してるか分かったのか、安心した笑みを浮かべた。
ホグワーツの殺伐とした空間の中にいるとは思えないほど、私とネビルの間には穏やかな空気が流れていた。
私と彼の複雑な関係を知っていたら"直ぐに叶う"なんて…有り得ないような事だけど、でも不思議とネビルの言葉には頷けたし、そうなるような気さえした。
ネビルのおかげで、私自身も不安に満ちていた心が少しばかり落ち着いた。そのせいか、私の口からは無意識に「ありがとう、ネビル」と言う声が出ていた。
ネビルはそれを聞くと、少し目を丸くし
「僕の方こそ」と言って、恥ずかしそうに笑った。
ネビルと笑いあっている間、何かが上の方で動いたような気がした私は、ふと視線をそちらに向けた。
すると、絵画の奥からアリアナが歩いて来ている姿が目に入った。私は、その姿をネビルにも見てもらう為、その場に立ち上がり そのまま絵画を指さした。
ネビルは「じゃあ、お願い」と言うと絵画の近くまで登り、アリアナに導かれるままホッグズ・ヘッドへと繋がる通路に向かった。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!