例のあの人と思わしき、不吉な声は
【ハリーポッターを差し出せ…】
何度もそう告げ、更にはハリーを差し出せば私達他の者には危害は加えない、私達が報われる…と言い。猶予として"1時間待ってやろう"と言い残した。
全てを聞き終えた生徒達は、先程とは打って代わり恐怖心からかハリーに冷たい眼差しを向け、身を引いた。
1人前に出たミリセントの声が、静かな大広間に響く。
ハリーを差し出せば、皆は救われる。
ドラコの安全だって、確保出来るかもしれない。
ハリーと仲直りせず、孤立し、成長も出来ていなかった前までの私なら…そんな、くだらなくて酷く卑劣な事を考えていたかもしれない。
"でも、今の私にはそんな考え微塵も浮かばなかった"
多くの生徒の視線がハリーに集まる中、私は先陣を切ったジニーに続き、守る様にハリーの前に立った。そして、更には騎士団やDAの皆もハリーの事を囲った。
大広間全体の空気が張り詰めている中、煩い足音と煩い声が廊下の方から聞こえたと思えば、ミセスノリスを抱き、慌てた様子のフィルチが大広間に姿を現した。
私も、フィルチが居ない事に気が付かなかったが…
まさか、フィルチも大広間に生徒達が集められていた事を知らなかったなんて…
この場にいる全員のそんな呆れた感情を代表するかのように、マクゴナガル先生がため息混じりに口を開いた。
マクゴナガル先生がそう言うと、大広間には再び生徒達の歓声が広がった。しかし、私は又もや皆に混じり歓声を上げることなく、直ぐにパンジーの元へ足を向けた。
フィルチに連れられ、他のスリザリン生と歩くパンジーを引き止めるように声をかける。
パンジーは確かにスリザリンの生徒だ。
だけど、今の彼女はハリーを差し出すような真似は…
そんな事を思いながら私は、彼女の事を呼び止めた。
そう、多くは語っていない。にも関わらず、パンジーは私が思っている事を理解したかのように、少し悪戯に笑って話し始めた。
パンジーは、私の瞳を真っ直ぐ見つめて微笑んだ。
そう、もし戦いが始まれば…彼もホグワーツに来るかもしれない。でもそれは、あくまで可能性の話…
「そうでしょ?」とパンジーは、首を傾げた。
そうだ。私は彼に会わなくちゃ…必ず会って話したい。
彼が無事な事も、この目でしっかりと確認したい。
パンジーは、フィルチの声にややうんざりとした表情を浮かべると、私に「行くわね」と微笑みかけ、スリザリン生達の後を追った。
他の生徒達も、戦いに備え続々と大広間を後にし…
私もその流れに続く。
ネビルは、私を呼び止めそう告げると「おいネビル!」と叫ぶシェーマスの元へ急いだ。
きっと今頃、ハリー達も分霊箱を探し出し、破壊しようと動いてくれているはずだ。なら、ハリーが言ったように…私達は時間を稼ぐ必要がある。
どうなるのか、分からない戦い。
"1時間後"のホグワーツがどうなってるかなんて
想像すら出来ないし、したくもない。
だけど今、戦うべき相手が目の前に来ている以上…
私達は、それに立ち向かう必要がある。
それに私は、彼と交した"誓い"が"約束"がある。
ちゃんと果たして貰うためには、彼と会わなければ…
愛する彼と…ドラコと……会って話しをしなければ。
そして、決して1人では叶えられない。
彼との未来を守る為にも…
私は、左手で首元の"ある物"を強く握りしめながら
杖を天高く上げ、然るべき時に備え呪文を唱えた。
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!
転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。