蒼斗に付いていくと、
少し足場の悪い所についた。
でも、海の水に触れられる。
そう思って海の水に触れようとした。
「…ダメっ!」
その瞬間、蒼斗が急に大声で私を止めた。
蒼斗の大声に聞いたことないから、
びっくりしてしまう。
「あっ…ごめん…っ!ここ、足場悪いから…っ、足が滑ったら大変だと思って…っ」
「そっか、大丈夫」
蒼斗は1回深呼吸すると、
真剣な表情で私を見てきた。
…やっぱり、
朝から蒼斗の様子はおかしいと思っていた。
悲しい表情を見せたり、
笑顔に違和感があったり…。
この場所は、蒼斗にとってどんな場所なのだろうか。
数秒間沈黙が続いたが、
その沈黙を破ったのは蒼斗だった。
「…俺、さっ。ここで大事な子…事故させちゃったんだ…」
震える声で蒼斗が話し出す。
……大事な子。
恐らく写真の女の子のことだろう。
「…ここでその子は滑って、海に落ちた。俺はすぐにその子を助けようとしたけど…、その子は、この岩に頭を打っちゃったんだ」
岩をガンッと蹴り飛ばす蒼斗。
蒼斗の表情は今まで見たことないほど暗かった。
「生徒手帳に入ってた写真は……」
思わず口に出して呟いてしまうと、
蒼斗は一瞬びっくりした顔をした。
そして、また俯いた。
「やっぱり、見たんだ…っ」
「…ごめんなさい」
「ううん…、これ…」
蒼斗は自分の生徒手帳を開き、
あの写真を私に見せてきた。
そこに写っていた女の子は_____
__________私だった。
「…わ、たし…」
「…俺が守れなかったせいで、あなたは記憶を失ったも同然。…記憶を失くしたあなたに会うのが怖くて、つい、はじめましてのフリとかしちゃってさ…」
「こんな近くに海があるのに、この間のお出かけの時、海を見なかったよね…、それ、俺がわざと海を見ないように避けたんだ…」
自分を責めるように蒼斗はどんどん話し始めた。
…じゃあ、蒼斗と私は記憶を失う前から知り合いだったんだ。
それを知りながら、蒼斗は、
記憶を失った私と関わってくれていた。
「…蒼斗と私の…記憶を失う前の関係って…」
「恋人だったよ…っ」
……やっぱり。
「…大事な彼女を守れない俺がもう一度「俺と付き合って」なんて、馬鹿げたこと言ってるのは分かってた…。……だから」
「さよならしよう、あなた」
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。