次の日、小さな物音で目が覚めた。
「あ、あなた。ごめんね、起こしちゃった?」
蒼斗が病室に入ってくる音だった。
「元からこの時間には起きようと思ってたし、大丈夫」
寝起きで一瞬忘れていたが、
机の上に置いてある生徒手帳で、
昨日見てしまった写真を思い出す。
……少し、辛い。
それでも、平然を装って、
蒼斗に
「生徒手帳、落としてたから机の上に置いておいたよ」
と言う。
「あっ、本当だっ」
蒼斗は生徒手帳を手にすると、
1回生徒手帳をめくった。
「中身みた…?」
"ズキン"
蒼斗のその一言に胸が痛くなった。
蒼斗の真剣な声からして、
蒼斗はあの写真を見られたくなかったのだろう。
「み、てないよ…」
「…そっかっ」
安心したように笑う蒼斗。
本当は聞きたかった、
『その写真の子は誰なの』って。
出会って数日の蒼斗に、
ここまで心惹かれた自分を軽く感じる。
蒼斗は、私のベッドの端に腰をかけると、
いつものように笑顔で話を始めた。
…
それから、数分話をすると、
蒼斗は「今日は用があるから」と帰ってしまった。
何回か、聞こうと思うタイミングはあったが、
結局何も聞けなかった…。
あの写真の女の子のこと。
蒼斗は何故私に優しくしてくれるのか。
聞きたいことはたくさんあったのに、
何1つも聞けなかった。
……聞くのが怖かった。
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。