第5話

5.切ない/
270
2018/03/30 00:33




次の日、小さな物音で目が覚めた。



「あ、あなた。ごめんね、起こしちゃった?」


蒼斗が病室に入ってくる音だった。


「元からこの時間には起きようと思ってたし、大丈夫」



寝起きで一瞬忘れていたが、
机の上に置いてある生徒手帳で、
昨日見てしまった写真を思い出す。

……少し、辛い。

それでも、平然を装って、
蒼斗に

「生徒手帳、落としてたから机の上に置いておいたよ」

と言う。



「あっ、本当だっ」



蒼斗は生徒手帳を手にすると、
1回生徒手帳をめくった。


「中身みた…?」





"ズキン"

蒼斗のその一言に胸が痛くなった。
蒼斗の真剣な声からして、
蒼斗はあの写真を見られたくなかったのだろう。



「み、てないよ…」


「…そっかっ」



安心したように笑う蒼斗。

本当は聞きたかった、
『その写真の子は誰なの』って。

出会って数日の蒼斗に、
ここまで心惹かれた自分を軽く感じる。

蒼斗は、私のベッドの端に腰をかけると、
いつものように笑顔で話を始めた。











それから、数分話をすると、
蒼斗は「今日は用があるから」と帰ってしまった。



何回か、聞こうと思うタイミングはあったが、
結局何も聞けなかった…。

あの写真の女の子のこと。
蒼斗は何故私に優しくしてくれるのか。

聞きたいことはたくさんあったのに、
何1つも聞けなかった。
……聞くのが怖かった。


プリ小説オーディオドラマ