勢いよく病室を蒼斗に連れられて出てきたが、
街中にくると蒼斗は歩幅を合わせてくれた。
……外の景色。
病院から見れる景色とは全然違う。
「あなた、着いたよ。チケット渡すね」
蒼斗ははい、と私にチケットを渡した。
映画のタイトルはホラーではなさそう。
よかった…。
蒼斗に連れられて映画館の中に入る。
「これってどういう映画なの?」
「続編物だけど、前編見てなくても楽しめる系」
蒼斗はニカッと笑って言った。
私が聞きたいのは、
どういうジャンルか…だったけど。
「あ、ちょっとまっててっ」
「…うん?」
急に、どっかに走っていってしまった蒼斗。
……どこに行ったんだろう。
数分経つと、蒼斗が色々抱えて戻ってきた。
「やっぱり映画のお供は必要だよなっ」
そう言って私に、
ポップコーンとドリンクを渡してきた。
「…カルピス?」
「え、あっ、ごめん!それじゃダメだった?」
「ううん、ありがと。…それよりいいの?こんなに…」
「いいのいいの、さっ、行こう」
蒼斗が私の手を引く。
上映ルームに入って、
しばらく色んなCMを見ると、
ついに私達が見る映画が上映された。
心配してたホラーものではなく、
ほのぼの系映画だった。
……なんだろう。
前編見たことがないはずなのに、
見たことがある気がする。
カルピスを一口飲むと、
余計なんだか懐かしい感じがした。
…記憶を失くす前にこの映画を見たのだろうか。
…
「あー、面白かったっ」
映画を見終えると、
蒼斗は満足そうに笑っていた。
…確かに面白かった。
「…そうだねっ」
私が笑っていうと、
蒼斗は驚いた顔をした。
驚くようなこと言ったかな…。
蒼斗はすぐに表情を戻し、
ニッと笑った。
「…笑った」
「え…っ」
「少なくとも、俺と会ってから笑った所あまり見てなかったし、戸惑ってる顔ばかり。まぁ、俺が悪いんだけどねっ」
確かに、蒼斗と出会って戸惑うことの方が多かった。
…それでも、
その戸惑い全てが楽しく感じられた。
なんで…蒼斗は私なんかにこんなに優しくしてくれるんだろう。
「俺と付き合って」なんて言われたけど、
面識のない私の性格も知らず、
病院の個室の中だから、顔も合わせたことがない。
…そんな私に、蒼斗はどうして…。
「お昼、どこ行きたい?」
「えっ…あっ、蒼斗に任せるよっ」
すっかり自分の世界に入り込んでしまってた。
…気になることはたくさんあるけど、
今は、あんまり考えないでおこう。
「じゃあ、俺のお気に入りの所行こっかっ」
蒼斗はそう言うと、
再び歩き出した。
私も蒼斗に合わせて歩き出す。
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。