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第1話

1. 彼/
492
2018/03/21 08:42




「ねえ、俺と付き合ってよ」



突如、私の前に現れた彼は、
ニカッと笑ってそう言った。


……だ、誰だっけ。
簡単にこの病室に入れるくらいだから、
やっぱり自分の知り合いとかなのだろうか。



「あー、混乱させちゃった?ごめんねっ」

「い、いえ…」

「こういう時は自己紹介からするものだよね、俺は蒼斗(ソラト)!高校2年生!」



蒼斗、とこの人は言うらしい。
ちょっと茶色がかった髪の色は、
とても彼に似合っていた。
……そしてイケメン。

やっぱり自己紹介してもらったからには、
こっちからもするべきなのだろう。



「えっと、私はあなた、同じく高校2年生」



…とはいえ、自分の病室で自己紹介するのもなんかおかしいと思うが。



「じゃあ、あなたって呼ぼうかな。俺のことは、蒼斗でいいよっ」

「…蒼斗」

「そうそう、で、話戻すけど俺と付き合ってよっ」




またさっきと同じ笑顔で言ってくる蒼斗。

もし、過去にも面識がなく初対面の人だったら、この状況ってかなりおかしいのではないだろうか。

でも、蒼斗がフレンドリーだからか、
違和感をさほど感じないのが怖い。




「えっと…」

「あー、やっぱりいきなり言われても困るよねっ。やっぱり日にちをかけておしていくしかないかな…」




やっぱり、この人は初対面らしい。



「じゃあ、日を改めてまた来るから、ここから出る準備しといてねっ」


「え、あ…ちょっと待って…!」




蒼斗はそれだけ言うと、
手を振って病室から出ていってしまった。

……ここから出る準備って…。






私は、数日前に気づいたらここにいた。
気づいた時には、記憶をなくしていた。

幸い、親の記憶。
言語や知識、少しの友人関係などは、
ここで生活していくうちに少しだけ思い出すことができた。

……それも、うっすらとだけど。




身体的外傷はあまりなく、
いつでも学校に行ける状況。

そんな私なのだが、
やっぱり記憶を失くしたことは怖く、ずっとここにとどまっている。




……進まなきゃ。
そう思ってるけど、怖くて体が動かない。


そんな今、蒼斗が現れた。
蒼斗は初対面で、
いきなり病室に入ってくるような変わった人間。
だから警戒しないといけないはずなのに。



何故か、警戒できない。
それどころか、彼に興味を持っている私がいる。




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