次の日も蒼斗は私の所へやってきた。
「やっほ、あなた。で、俺と付き合う気になってくれた?」
「……」
「やっぱそうだよね~、じゃあもっと俺のこと知ってよ」
……え?
蒼斗はそう言うと私にグッと近づいてきた。
あまりに突然の事で目を瞑ってしまう。
その時、私の手に何かが触れる感覚がした。
少しずつ目を開けると、
私の視界に入ってきたものは紙袋だった。
「……これは?」
「それに着替えて、俺とデートしよっ?」
紙袋の中を見ると、
派手すぎない可愛らしい服が入っていた。
「……えっ、でも…」
「ねっ、じゃあ俺一旦ここ出ていくから着替えておいてね?」
それだけ言うと、蒼斗は出ていってしまった。
……いきなりすぎる。
紙袋から服を取り出す。
改めて見ると本当に可愛い服。
…ここに来てからオシャレとかあまり考えなかったな。
思い切って、蒼斗から貰った服を着てみる。
サイズは驚くほどピッタリで、
着心地も良い服だった。
「……ん、似合ってる」
「……えっ、そ、蒼斗!」
気づくと、蒼斗が病室のドアに寄りかかっていた。
「……見てた?」
「な、見てないよっ!そろそろかなと思って入ってきちゃった」
蒼斗は目を手で隠す素振りを見せた。
…もう、着替え終わったのに。
「も、もう着替え終わったよ」
「そっかっ、じゃあ行こ!」
蒼斗は私の腕を掴み、走り出そうとした。
「ち、ちょっと待って…!」
「ん」
ん、じゃなくて、
どこに行くかもわからないし、
まだ外出の許可も得てないのに…。
その様子に察したのか、
蒼斗は「あぁ」と言って笑った。
「大丈夫だよ、あなた。俺があなたの知り合いって言って外出許可貰ったし」
「そ、そっか…。で、どこ行くの…?」
「んー、俺的には遊園地がいいとか思ったんだけど、流石に刺激的すぎるかなって、だからこれっ」
蒼斗はヒラリと映画のチケットを2枚見せてきた。
…映画。
記憶をなくす前、自分がどんな映画を好きだったかも分からない。
もし、ホラーとかだったらどうしよう…。
「説明も済んだし、よし、じゃあ行こっ」
そんな心配を察することもなく、
蒼斗は、掴んだ私の腕をそのまま引っ張り
私は半ば強引に蒼斗に病室から連れ出された。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!