いつぶりか分からない授業は、
全然付いていけず、
それでも周りのみんなが優しく教えてくれるから苦じゃなかった。
病室で過ごす時間と違い、
学校で過ごす時間はあっという間に感じられた。
__________そして、放課後。
屋上のドアノブに手をかける。
このドアを開ければ蒼斗がいるかもしれない。
そう思うだけで心臓がバクバクうるさかった。
数秒間迷い、ドアを開けると、
蒼斗は私より先に屋上で待ってた。
蒼斗は私の姿を見ると、優しく微笑んだ。
そんな蒼斗の隣に並んで座る。
「蒼斗、私ね…、記憶はやっぱり戻らない」
私が言うと、蒼斗は悲しそうな表情をして、
「そっか…」と言った。
「でも…、蒼斗のおかげでここまで来ることができた。ずっと、進む気のなかった私が、学校に来て、ようやく前を向こうと思えた。……本当に蒼斗のおかげ。ありがとう」
蒼斗の方を見て微笑むと、
蒼斗も微笑み返してくれた。
…本当に伝えなきゃいけないのはここから。
スゥ、と深呼吸をして、蒼斗の方を見る。
「…私ね、記憶をなくしたけど…、蒼斗のことは今も好き」
「え…っ」
「…記憶をなくす前のことは分からないけど、蒼斗に私が恋していたのは自分でも納得しちゃう」
アハハと軽く笑った瞬間、
蒼斗は急に私を座ったまま抱きしめてきた。
一瞬のことで頭が真っ白になってしまう。
数秒沈黙が続いたが、
その沈黙を破ったのは蒼斗だった。
「…俺、さよならしよう、なんて言っておいてもうあなたと話せなかったらどうしようかと思ってた…」
「俺が守れなかったせいで、あなたは記憶を失ったのに、……本当に俺って最低だよね…っ」
蒼斗の声は酷く震えていた。
「…でも、あなたが今、今でも俺のこと好きって言ってくれて…物凄い嬉しかった…」
「…私、蒼斗が好き、記憶を失って過去のことは思い出せないけど…それでもよければ、また蒼斗の隣にいたい…」
蒼斗は私を抱きしめる力を強めて、
「また、一緒に行ったところもう一度全部行こう…今度あなたが危ない目にあったら、…今度こそは必ず俺が守るから」
と言った。
そして、蒼斗は私にそっとキスをした。
記憶を失う前のことは分からない、
それでも私は蒼斗が好きで、
蒼斗は私を好きでいてくれた。
…これが、運命というやつなのかもしれない。
例え、記憶を失っても、
またもう一度、
新しい思い出を作っていけばいい。
「…蒼斗、大好き」
「…俺も」
君と、もう一度。 -END-
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。