その後、蒼斗は私をお洒落な喫茶店に連れて行ってくれた。
その時、蒼斗と話して分かったことがある。
蒼斗は私と偶然同じ学校だったということ。
私の一番仲良い友達と知り合いということ。
蒼斗は病院の近くに住んでいること。
……些細なことだけど蒼斗のことをいっぱい知れた。
それが、何故か私にとっては嬉しかった。
その後は、色んな小さなお店を周り、
雑貨やアクセサリー。
色んなものを見に行った。
時が過ぎるのはあっという間で、
そんなことをしていたら、すぐ1日が終わってしまった。
蒼斗は私を病院まで送り届けると、
『また来るからっ』と言って帰っていってしまった。
…なんだかんだ言ってすごい楽しんでしまった。
ここ数日間、
ただ病室で外を眺め、いつ記憶が戻るのかと自分を責める日々が続いていた。
だけど、今日は違った。
記憶が戻る心配も忘れ、夢中になって楽しめた。
「蒼斗はなんで…私なんかに…」
1人になった病室でポツリと呟く。
その時、自分のベッドに目を移すと、
何かが紛れ込んでいた。
「……生徒手帳」
恐らく、蒼斗のだろう。
名前を確認するために、
生徒手帳を開くと何かが落ちてきた。
……写真。
落ちて裏返しになった写真をめくる。
写っていたのは、女の子と蒼斗だった。
何故か見ちゃいけないものを見た気がして、
すぐに写真を見るのをやめた。
その為、女の子がどんな子だかはわからなかった。
……蒼斗の彼女なのだろうか。
それだとしたら、
何故蒼斗は私に「俺と付き合って」なんて言ったのか。
それとも姉とか妹とか友達なのか。
もう一度写真を見て、
確かめればいいだけなのに、
私にはそれをする勇気がなかった。
そっと写真を生徒手帳に戻し、
次、蒼斗にあった時に渡すために机の上に置いておき、再びベッドに横になる。
そして、複雑な気持ちを押し殺して、
その日は目を閉じた。
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。