「お前って本当に馬鹿すぎて呆れる」
冗談なのか本気なのか全くわかんね。
そう言ってはぁ、と大きな溜息を吐き出すと
私の冷え切った手をギュッと握り締めて
半ば強引に距離を縮めてくる。
『ちょ、山田ち、近い』
「お前本当にわかんねーの?」
俺がお前を待ってた理由。
そう言って私の耳元に囁くように話す山田の声は、
私の鼓膜を優しく刺激する。
ああ、もう山田の馬鹿。
そんな事されたら本当に調子が狂う。
だいたいそんなの、あんたのさっきの顔見たら分かるに決まってんじゃない。
私だってそこまで馬鹿じゃないんだから。
只、あんたのそんな顔見たことないから
正直どうしたらいいかわかんなくて。
こんな事に免疫のない自分には
その事実がただただ照れくさくて恥ずかしくて。
だからあの時、ワザと気づかない振りをして
おどけてみせただけだ。
「俺はさ、ホントの事言うとお前と一緒にクリスマス過ごしたかっただけ」
せっかくのクリスマスなのに好きなやつと一緒に過ごせないなんて尺だろ、
なんて動揺を隠せない私へ更に追い打ちをかけるかの様に
さらっと大胆発言をする山田に私はもう思考回路が停止寸前だった。
ずっと只の幼馴染としか見てなかった男に
いきなりそんな事を言われて一体どうしたらいいって言うの。
ついさっきまで二人の間に流れていたゆるい空気が
まるで嘘だったかのような今のこの空間が正直耐えられないでいた。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!