第3話
暖かい缶コーヒー
『お疲れ様でしたー』
長かった寒空の下でのチラシ配りはやっと終了し、
私は薄っぺらいサンタコスから
ようやく暖かい服装へと着替えることができたのだ。
『ああ、駄目だ。完全に体が冷え切ってる』
長時間外にいたせいか私の体は完全に冷え切っていて体が自然と縮こまる。
コンビニよって暖かい飲み物でも買って帰ろうっと。
なんてそんな思考回路の中、先ほど借りた山田のマフラーを巻いて
近くのコンビニへと足を向けた時だった。
「おつかれさん」
『ひっ!』
ぴと。
突然背後から声を掛けられたと思ったら、
何者かに暖かい物を頬に当てられる。
余りの急な出来事に変な奇声を発して
後ろを見てみるとにんまり笑ったあいつが居た。
『山田っ、あんた何してんのこんな所で』
「なに、ってお前待ってたんだけど」
それが何かとでも言いたげな表情で缶コーヒー片手に私を見つめる山田。
いやいや、待ってたって山田と別れてから私数時間はバイトしてたんだよ?
『え、あんたもしかしてここでずっと待ってた訳じゃないよね』
「いや、待ってたけど」
『なっ、ばっかじゃないの!こんな寒いとこで何もせず待ってるなんて風邪引いちゃうでしょうが!』
何を考えてるんだ山田のヤツは!
私にはあんな風に言っといて自分の体はどうでもいいのかっての。
私は山田から借りたマフラーを解いて
冷え切っているであろう山田の首元に乱暴に巻きつけてやった。
「え、な、なんだよ急に」
『あんたこそ風邪引いたら意味ないでしょ』
ばっかじゃないのほんと、なんて言いながら山田の顔をふと見つめて見ると視線が合う、
すると山田はぎょっとしたように視線を逸らして手に持っていた缶コーヒーを私に差し出したのだ。
『なに、これ』
「え、缶コーヒーだけど」
『いや、そう言う意味じゃなくて』
本当コイツってやつは。すぐふざける。
「体冷えてるだろうなと思ったから俺からの差し入れだよ」
ほら、飲め。そう言って山田は暖かい缶コーヒーを私に向かって投げてみせた。
それは綺麗な放物線を描き私の手元にすっぽり収まる。
『お、暖かい』
「だろ」
何気なく出た私の言葉に山田は無邪気に笑ってそう言ったのだ。
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