ナホは帰り道、今日の一日で起こったことを整理していた。
そう、今日は転校初日だった。
"友達作れるかな…学力差大丈夫かな"みたいな、
よく考えれば、3日4日行けば
良くも悪くも何とかなるようなことで
とっても緊張していたのに。
知り合いが誰もいない教室に飛び込んで、
『さあどうする?!』
と考える間もなかったほどたくさんのことが起こった。
隣の席にいたのは、ずっと目標にしていた
"ムーンウォーカー"のメンバーだったこと。
自分と同じような、腕を殴られたアザが
"ムーンウォーカー"にも薄く残っていたこと。
私は今、お父さんが作った"リズム"の上を"踊らされている"ということに気づいたこと。
そして、私は本当はその"リズム"から逃げて、
自分らしい"リズム"で踊りたい、と気づいたこと。
そして、
MJ部は自由に、自分らしい"リズム"で踊っていい場所だと知ったこと。
いつの間にか目の前には自分の家がある。
気づかないうちに随分進んでいたらしい。
お母さんは少し悲しそうな顔をして相槌をうった。
私は頷いて、父が待つ部屋に向かった。
ここまではいつもと同じ"リズム"。
扉を軽くノックすると、
中から「はい」という声が聞こえた。
「頑張れ私…」
と呟いてから扉を開ける。
中に入ると、部屋の真ん中で父があぐらをかいて待っていた。
ダンス部ではないと言うと、
父の片眉がぴくっと動いた。
父は目をギョッと見開いて私のほうを睨んでいる。
半笑いでバカにしたようにそう言う。
父は少し考えてからニタァっと笑った。
私はムーンウォーカーの顔を思い出した。
そして叫んだ。
自分の父親がこんなにダメな大人だということになぜ今まで気づかなかったのだろうか…
醜い言い訳をダラダラと続ける父に、
私はMJの詩を叫んだ。
それだけ言うと、私は部屋を飛び出した。
「待て!」と父親が怒鳴ることも、
追いかけてくることも無かった。
これでやっと、私の"リズム"で踊れる…!!
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。