第9話

BAD
61
2018/11/04 00:58
ナホは帰り道、今日の一日で起こったことを整理していた。
ナホ
朝ここ通った時は緊張で凄かったのになー
そう、今日は転校初日だった。



"友達作れるかな…学力差大丈夫かな"みたいな、
よく考えれば、3日4日行けば
良くも悪くも何とかなるようなことで
とっても緊張していたのに。



知り合いが誰もいない教室に飛び込んで、
『さあどうする?!』
と考える間もなかったほどたくさんのことが起こった。



隣の席にいたのは、ずっと目標にしていた
"ムーンウォーカー"のメンバーだったこと。


自分と同じような、腕を殴られたアザが
"ムーンウォーカー"にも薄く残っていたこと。


私は今、お父さんが作った"リズム"の上を"踊らされている"ということに気づいたこと。


そして、私は本当はその"リズム"から逃げて、
自分らしい"リズム"で踊りたい、と気づいたこと。







そして、



MJ部は自由に、自分らしい"リズム"で踊っていい場所だと知ったこと。



いつの間にか目の前には自分の家がある。

気づかないうちに随分進んでいたらしい。


ナホ
ただいま
おかえり。
学校、どうだった?
ナホ
うん、楽しそうな学校だったよ
良かったじゃない!
ところで、今日は部見学にでも行ってたの?
ナホ
ううん、部活に参加してきたの
そう…
お母さんは少し悲しそうな顔をして相槌をうった。
お父さんが待ってるから、レッスンしてらっしゃい
私は頷いて、父が待つ部屋に向かった。



ここまではいつもと同じ"リズム"。



扉を軽くノックすると、
中から「はい」という声が聞こえた。

「頑張れ私…」
と呟いてから扉を開ける。

中に入ると、部屋の真ん中で父があぐらをかいて待っていた。
遅いじゃん
ナホ
あの、お父さん…
まずは遅れた理由を教えてもらおうか
ナホ
…部活に行っていました
あぁ、ダンス部か。
新戸丘しんとおかのダンス部は有名だもんな。
ナホ
私が行っていたのはダンス部ではなく、MJ部です
ダンス部ではないと言うと、
父の片眉がぴくっと動いた。
ダンス部じゃないって言ったか?お前。
ナホ
ダンス部じゃないって、ハッキリ言いました
父は目をギョッと見開いて私のほうを睨んでいる。
ダンス部に入らないなら今から転校を取り消すぞ…
ナホ
私はダンス部には入らないし元の学校にも戻りません…
あと、MJ部?
なんだよその小学校のクラブ活動みたいな部活。
半笑いでバカにしたようにそう言う。
どうせくだらないんだろ?
だいたいそんなものに興味を持つなんて…
そんな娘に育てた覚えはないぞ。
ナホ
じゃあお父さんは、私をどんな娘に育てたつもりなの?
父は少し考えてからニタァっと笑った。
ダンスの大会ではいつも優勝してきて、
それでお父さんの言うことには真っ直ぐ応じてくれる娘だよ。
ナホ
…それはお父さんのリズムに私を巻き込みたいだけでしょ?
は?リズムってなんだよ
ナホ
もう嫌なの。
お父さんのリズムで踊らされるのは。
ナホ
私は自由になりたいの!
ダンスを純粋に楽しみたいの!
だから、MJ部に入る。
だいたいMJ部ってなんだよ
私はムーンウォーカーの顔を思い出した。
そして叫んだ。
ナホ
いつでも自由に、自分のリズムで踊っていい場所だよ!!
……………
ナホ
私はお父さんから逃げる!!
俺は何も悪いことしてねぇよ!
ナホ
教え子のこと殴ったじゃん!
あれは指導だ
ナホ
優勝出来なかった日にも殴ったじゃん!
なに?あれも指導ですか?
…指導に決まってるだろ
ナホ
自分は悪くないと…?
当たり前だ。
そもそも、俺のおかげでお前はあの学校に行けたんだ。
なのに、なんだその態度。
自分の父親がこんなにダメな大人だということになぜ今まで気づかなかったのだろうか…

醜い言い訳をダラダラと続ける父に、
私はMJの詩を叫んだ。
ナホ
Just to tell you ones againもう一度分からせてあげる
………
ナホ
Who's bad誰が悪か!!
それだけ言うと、私は部屋を飛び出した。

「待て!」と父親が怒鳴ることも、
追いかけてくることも無かった。









これでやっと、私の"リズム"で踊れる…!!

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