第7話

Slave To The Rhythm
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2018/11/01 15:23
ナホ
これって……

Slave To The Rhythmスレイヴ トウ ザ リズム』に出てくるのは、
旦那に奴隷のように扱われていた女性。


昼間はフルタイムで働く会社員。

"家で子供が待っているから帰らなくてはいけない"
と言っても残業を強要する、理解のない会社。


家に帰ると夕飯の支度。

夜9時に出すのが決まりで、
遅れると彼女は怒られる。


自分の時間なんてほとんど無い、とても悲しい毎日だろう。


でも彼女は必死にその"リズム"に食らいついた。
必死に踊った。
ナホ
なんで彼女は離婚しなかったの?
トウヤ
我慢すれば、いつか幸せな毎日になるって思ってたんじゃない?
旦那さんのこと好きだったんだろうし。
ナホ
それでタイトルが『Slave To The Rhythm』になるのね…なるほど……


ある日、彼女はもう"踊らない"と宣言した。
が、旦那の態度は変わらない。


彼女はやっと逃げ出した。

そして夜通し"踊った"。

それは誰かが作った"リズム"ではなく、
彼女の中から溢れ出すような"リズム"。

彼女はやっと、自分のリズムで踊ることが出来るようになった。

ナホ
ハッピーエンドでよかった…
アキ
……
トウヤ
……
リョウ
……
ナホ
え?なに?
男3人はため息をついた。
トウヤ
なんか気づかない?
ナホ
ごめん、何も分かんない
リョウ
…どんな話だった?
リョウの口調は、まるで『保育園の遠足どうだった?』と聞く母親のよう。
ナホ
えっと…
夫に縛られた悲しい毎日を送っていた女の人が、やっと自分が生きたいように生きられるようになったお話、かな?
リョウ
それ、途中までナホちゃんの事情と全く同じだからね?
ナホはまだピンと来ていないようで、
困った顔でトウヤを見た。
トウヤ
ほんとに分からないの?
え、天然?それともバカなの?
アキ
バカなんでしょ。
俺らがなんでダンス部じゃないか調べるために、わざわざ転校してくるぐらいのバカってことでしょ。
トウヤ
ん?それはどういう…
ナホは顔を真っ赤にして壁にもたれている。
リョウ
この間駅前で話しかけてきた女の子はナホちゃんだったってこと、だろ?
トウヤは口も目も大きく開けてナホ見た。

ナホはその視線をブロックするように、隅っこに小さく丸まって俯いていた。
トウヤ
あぁぁぁ!!!
アキ
待って…気づいてなかったの?
リョウ
俺は何となく分かってたぞ!
トウヤ
…分からなかった
アキ
人の事バカって言えるほどのおツムじゃなさそうですねぇ
トウヤ
…うるさい
ヤイヤイ言い合っているふたりを尻目に、
小さくなっているナホにリョウが近づいて話しかけた。
リョウ
ナホちゃんが『Slave To The Rhythm』に出てくる女の人だとしたら、旦那さんは山崎コーチだよ?
ナホ
……それ、どういう意味?
トウヤ
ナホちゃんは、山崎コーチ…あ、父親の良いように使われてるってこと。
「おバカさんは黙ってたら?」
と言ってくるアキを一瞥して、話を続ける。
トウヤ
父親が作りあげた"リズム"に乗せられてるんだよ…さすがに気づいて。
不安になるから
ナホ
お父さんの"リズム"に乗せられてる…

ナホは考え込むような顔で黙ってしまった。
リョウ
そう。
しかも、小さい頃からびっちり決められたバッチバチの"リズム"だよ。
アキ
大会で優勝出来なかった日は殴られるとか、
過度なレッスンとか。
もうその"リズム"を疑いすらしないレベルでしょ?
ナホ
じゃあ、"ムーンウォーカー"って呼ばれるレベルの3人が、ダンス部に入らない理由は何?
すると、ナホは少し遠慮がちに、だけど少し強く質問した。
3人は少しだけ考えたあと、
すぐに笑ってナホを見た。
リョウ
俺らは楽しんでやってるだけだからね。
競う目的でやってないし、そんな奴が大会出ても迷惑でしょ?
リョウがそう言って笑う。
トウヤ
"ムーンウォーカー"が、ムーンウォークしてなかったらダメでしょ?
トウヤ
だから、俺らはムーンウォークが出来る場所を作ったんだ。
アキ
そう。
自由に、自分らの"リズム"で踊っていい場所だ。
トウヤとアキは、少し真剣にそう言った。
リョウ
ナホちゃんもMJ部なんだから。
好きなリズムで踊っても誰も文句言ったりしねぇよ
ナホ
ありがとう。
……本当に、ありがとう。
ナホは深く頭を下げた。


彼女の目は少しだけ潤んで、肩も震えていた。




そして彼女は、とらわれた"リズム"から逃れるための第1歩をやっと踏み出した。

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