第39話

糸の切れたマリオネット
900
2021/01/14 15:43
side:瀬名泉
あれから、俺と瑞波は喋ることはおろか、廊下で出会しても瑞波が足早に去ってしまうようになった。
───あやつり人形、か。
改めて考えた。
瑞波はどれだけ辛かったのかとか今どんな気持ちなのかとか。


糸が切れて自由になった瑞波に比べて、俺はまだ糸がついたお人形。


もう瑞波の兄には戻れないのかと俺らしくもない不安すら覚えた。

そんなある日、廊下を歩いていると瑞波とすれ違った。


いつも足早に去っていくのに、何だか今日は俯いていて元気もなくて、俺に気がついているかさえも危うかった。
瀬名泉
瀬名泉
………瑞波?



瑞波は答えなかった。

聞こえていないのかと肩に手を乗せると、はっと我に返ったように顔を上げ走りさろうとする。

俺は咄嗟に引き止めた。
瀬名泉
瀬名泉
どうしたのさ、そんな暗い顔して
天祥院 瑞波
天祥院 瑞波
………
瑞波は答えなかった。
さっきあげたばかりの顔も、質問をした途端にまた俯いてしまって顔もよく見えなかった。
瀬名泉
瀬名泉
なにかあったの?
天祥院 瑞波
天祥院 瑞波
………なん、でもない
瀬名泉
瀬名泉
………そっか。
これはきっと嘘だ。
直感的にそう思った。


じゃあなんでそんな辛そうな顔をしてんのさ。

問いただしたい気持ちもあったけど、俺も学ばないわけじゃない。



無理に聞くのはいけないと、この間知ったじゃないか。
瀬名泉
瀬名泉
でも本当になにか困ってる事があるならいつでも俺に相談して
天祥院 瑞波
天祥院 瑞波
………うん
瀬名泉
瀬名泉
今は離れちゃったけどさ………それでも、俺は瑞波の兄だから。
天祥院 瑞波
天祥院 瑞波
………………うん。
瑞波が小さく頷いたのを確認すると、俺は優しく頭を撫でた。

俺とにて少しくせっ毛な柔らかい髪。
指に絡まってはするりと抜けていく。


離れた月日はあったけど。
それでも俺は瑞波の兄だから。

兄は、妹の役に立ちたいんだよ。

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