第7話

記憶
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2018/03/04 04:39

「なにか用ですか?」

「あぁ、うん。あのさ」

「はい」

小さな間があいた。

「おれさ」

そして、また間があく。

「……はい」

「えぇっと、」

さらに間があいた。

えらくことばに詰まっていた。

その視線の定まらないようすが、ひどく可笑しく思える。

いつもは、なにをするにも冷静で無表情。

そんな彼の落ち着かない態度を見たのは、初めてだった。

気づかれないように顔を伏せると、小さく笑った。


すると、

「ーー見てたんだ」

「……はい?」

訊き返したのは、聞こえなかったのではない。

理解不能だったからだ。

「ずっと見てた」

もう一度、呟いた。

先ほどとは打って変わって、ハキハ キとした声だった。

あまりにはっきりと耳に届いたので、身体にわずかな電流が走った気がする。




見てた?

なにを?

彼の意図がのみこめない。


摩羅涼は、こっちを見ていた。

そして、続ける。

「五年前、話しかけたの覚えてる?」

「……五年前?」

「うん。午後の授業って眠くなるよね、って声かけたんだ。そしたら、内藤さん、そうですね、って返事してくれた。初めての会話だったから、ハッキリと覚えてるんだ。あの時、すごく緊張した」

そう言って、口に弧を描いた。

……五年前、か。

それを聞いて、淡い記憶が少しだけよみがえった。

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