摩羅 涼。
隣のクラスの同級生。
スポーツ万能で頭がいい。
文句なしの格好良さ。
それゆえにモテる。
いつも無表情のくせに、まわりにはいつも人が溢れていてーー
『涼ーー放課後みんなで遊ぼうぜ』
『涼くんっ! 友だちが紹介してほしいって』
『摩羅っ、この問題の解き方教えて』
彼の名前が飛びまわる。
とうの本人は、平然した顔で
『別にいいよ』
それだけ。
気の利いた反応をするわけではないのに、まわりはそれで満足な顔をする。
摩羅涼は、とにかく友だちが多くて、孤独とは無縁であるように思えた。
いつもチヤホヤされて、クラスの話し合いとかでは、必ず彼の意見が採用される。
頭が良いので、要領を得た意見が、彼の頭からひねり出されるのだ。
無表情の顔の裏で、いったいどんな風にシナプスを伝達すれば、そんな的を得た考えに行き着くのか気になった。
だけど、考えるのが得意じゃないわたしは、思考をすぐにやめた。
もうひとつ、不思議なことがある。
彼をねたむ人がいないことだ。
目立つ存在であれば、大なり小なり、恨みを買うがお決まりだ。
それでも、彼への悪口を聞いたことはない。
教室にいると、嫌でもヒソヒソ話が耳に入ってくる。
影口は人間の象徴だ、と思うほどに。
だけど、その中に摩羅涼の出番はなかった。
一度も、だ。
人気という言葉の意味が、彼をみればなんとなくわかった。
わたしにとって彼は有害そのものだった。
あんなに目立つ代物は探してもなかなか見つからない。
それほど、光に満ちたオーラを放っていた。
ここで、疑念がわいてくる。
そんな彼が、わたしになんの用だろう?
対した特技のないことが特技の自分。
果たしてなにかの目的があるというのか?
勉強を教えてほしい。
なんてことはないだろう。わたしは中の中だ。
友だちになろう!
……このご時世で、友だちになるのにわざわざ承諾を得る人はいない。
だから、この予想も却下だ。
ならば、一体?
ーー考えても答えが出るわけはない。
人と接することを避けていたわたしは、他人の気持ちを察知する能力が欠如していた。
だから、今こうして自問自答しているのは、言わばムダなあがきということだ。
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。