第3話

自問自答
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2018/02/28 09:50
摩羅  涼。

隣のクラスの同級生。

スポーツ万能で頭がいい。

文句なしの格好良さ。

それゆえにモテる。



いつも無表情のくせに、まわりにはいつも人が溢れていてーー


『涼ーー放課後みんなで遊ぼうぜ』


『涼くんっ! 友だちが紹介してほしいって』


『摩羅っ、この問題の解き方教えて』


彼の名前が飛びまわる。


とうの本人は、平然した顔で


『別にいいよ』


それだけ。

気の利いた反応をするわけではないのに、まわりはそれで満足な顔をする。

摩羅涼は、とにかく友だちが多くて、孤独とは無縁であるように思えた。

いつもチヤホヤされて、クラスの話し合いとかでは、必ず彼の意見が採用される。

頭が良いので、要領を得た意見が、彼の頭からひねり出されるのだ。

無表情の顔の裏で、いったいどんな風にシナプスを伝達すれば、そんな的を得た考えに行き着くのか気になった。

だけど、考えるのが得意じゃないわたしは、思考をすぐにやめた。




もうひとつ、不思議なことがある。

彼をねたむ人がいないことだ。

目立つ存在であれば、大なり小なり、恨みを買うがお決まりだ。

それでも、彼への悪口を聞いたことはない。

教室にいると、嫌でもヒソヒソ話が耳に入ってくる。

影口は人間の象徴だ、と思うほどに。

だけど、その中に摩羅涼の出番はなかった。



一度も、だ。



人気という言葉の意味が、彼をみればなんとなくわかった。



わたしにとって彼は有害そのものだった。

あんなに目立つ代物は探してもなかなか見つからない。

それほど、光に満ちたオーラを放っていた。



ここで、疑念がわいてくる。



そんな彼が、わたしになんの用だろう?

対した特技のないことが特技の自分。

果たしてなにかの目的があるというのか?



勉強を教えてほしい。

なんてことはないだろう。わたしは中の中だ。



友だちになろう!

……このご時世で、友だちになるのにわざわざ承諾を得る人はいない。

だから、この予想も却下だ。


ならば、一体?


ーー考えても答えが出るわけはない。

人と接することを避けていたわたしは、他人の気持ちを察知する能力が欠如していた。

だから、今こうして自問自答しているのは、言わばムダなあがきということだ。

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