第5話

密かな憧れ
978
2020/07/07 18:28
凛雨
……どうして
郁人
あ?
凛雨
どうしてそんなさらっと「好き」とか言えるの……?
僕は言えない。仁菜にずっと、言えていない。

言おうとしたことは何回もある。だけど、あと一歩が踏み出せなくて。

目の前の友達は、こうも簡単に言えているのに。


その時「こっち見ろ」と郁人の声がして、顔を上げると郁人と目が合った。
郁人
……好きな女に__それも片想いの奴に言うのは誰だって勇気いるよ。俺がお前に言えるのはお前が友達だからと、お前には直球じゃねぇと正しく伝わんねぇからだ
凛雨
……?
首を傾げると、ふっと郁人は口角を上げる。
郁人
お前も鈍感だからな。あいつに負けず劣らず
凛雨
……どういうこと?
郁人
さぁな。フード脱いだら分かるんじゃね?
凛雨
っ、それは__
僕はハッとなった。クラスメイトみんなが僕を見ている気がした。

女みたいだと、心の中で嗤っているような気がした。
郁人
……冗談だよ。まぁとにかく、お前はそのままでいい。変わっても俺は友達でいると思うけどな
ちょうどチャイムが鳴って、郁人は黒板の方を向いてしまった。

……また、さらっと嬉しいこと言ってくれた。

かっこいいなぁ。


……僕もいつか、そんな風に仁菜に伝えられるかな。

プリ小説オーディオドラマ