僕は毎回体育を見学している。
入学時に母さんが高校に話をして、校内でもフードを被って過ごすこと、体育は見学することを認めてもらったからだ。
罪悪感はあるけれど、罪悪感じゃフードは脱げない。
この顔を見られてまたいじめられたら__。
ぎゅ、と右手でフードの端を握る。
その時、後ろから黄色いものが転がってきて僕の横を少し過ぎたあたりで止まった。
テニスラケットを持った一人の女子が向こうから駆け寄ってくる。
夏の体育は男女とも外で、僕の前では男子が野球、フェンスを挟んだ後ろでは女子がテニスをしている。
黄色いテニスボールはどうやら、フェンスの最下部に空いた穴から偶然こちらに転がり出てきたらしかった。
フェンスぎりぎりに立つ女子が、申し訳なさを漂わせながら僕に手を合わせる。
地面に手をついて立ち上がり、ボールを拾ってその子へ歩み寄る。
僕なんかに笑いかけてもらえたことが嬉しくて、少し笑顔になる。
風が強くなってきて、僕はフードが取れないよう額の上でフードの端を摘んだ。
小さな声は、元の場所へと踵を返した際に足下で鳴った砂を踏む音にかき消されて僕の耳には届かなかった。
そして、体育はつつがなく終了した。
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。