その後、僕は初めて体育の授業に参加した。
特に運動が得意なわけではないので、目立った活躍はなかったけれど、郁人とキャッチボールしたり、ミニゲームでライトに来たフライをキャッチしてアウトにしたり。
周りからの声に、僕はボールが収まったグローブを笑顔で上にあげた。
椅子の背に頬杖をついて僕を見る郁人が口の端を緩める。
僕は人目を気にすることなく笑顔になって言った。
……うん。僕も、何回も迷った。
フードを被らないでいるのはやっぱり怖いし、何かあった時にすぐまた隠せるようにしたいって。
だけど、隠してしまったら“僕”は何も変わらない。
仁菜のそばに、い続けられない。
「別に」なことないと思うんだけど……郁人の表情から呆れを通り越した何かを感じるよ。
ふと、一人で黒板を消す日直の子の姿が目に入った。
前は『僕なんかが』って、絶対行けなかったけど__
僕は微笑を返して、チョークの文字を黒板消しで消していった。
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。