教室に戻ると、待ってると言ったはずの仁菜がいなかった。
先に帰ったことはないだろうから、席で日誌を書いている郁人に聞いてみる。
僕はすぐさま教室を出て、急いで廊下を走った。
まさか仁菜も告白……!?先輩なんて、かっこいいから勝てる気しないよ……!
どうか、告白じゃありませんように……!!
◇◆◇
下駄箱に仁菜の上履きがあったので、僕は靴を履き替えて校舎を出た。
今も仁菜と郁人以外にちゃんとした友達はいないけど……聞くくらいなら、できる!
ちょうどグラウンドの方から人がやってきた。廊下で何度か見かけたことのある、恐らく同い年の男子に駆け寄る。
ばっと頭を下げて、旧校舎の裏側へ走っていく。
僕がさっき告白されたのは新校舎の裏で、二つは全然違う場所にあるからすれ違うこともなかったのだろう。
旧校舎の裏はたまに人通りもあるし。
一分もしないうちに、旧校舎の裏に着いた。
僕は横の壁に背中をつけてそーっと校舎裏にあたる空間を覗く。
もし本当に告白だったら、告白を邪魔することになってしまうから。
そこには二人しかいなくて、仁菜が向かいの人に頭を下げていた。
本当に告白だったんだ……。でも断ってる、よかった。
……「よかった」なんて、勇気を出して告白した人が振られてしまった時に思う言葉じゃないな。次からは何も思わないようにしよう。
え、仁菜好きな人いるの?……この言い方は、いない?どっち?
僕が考えている間に、先輩らしき人は仁菜に詰め寄っていった。
仁菜が気迫に押されるように後退していく。
やがてその背中は壁につき、仁菜の逃げ場がなくなった。
威圧的に仁菜を見下ろす先輩。
……これ……仁菜困ってる、よね。ていうか僕だったら絶対怖い。先輩、髪型ツーブロックでがっしりしてて、遠目からでも迫力ある……。怖い、けど……。
震えた仁菜の声が耳に届いた。
__体が弾かれたように動き、気付けば仁菜を庇うようにして彼女と先輩との間に立っていた。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!