二年生の僕たちは、同じクラスでも選択科目によっていくつかに分かれる。
化学基礎の僕と、国語研究の仁菜は、これから別々の教室で授業を受けることとなる。
行くか、うん、そんなやり取りを郁人と交わして歩き出そうとした直前だった。
焦ったような仁菜の声に振り返ると、自分のロッカーの中を覗いて青くなっている仁菜が見えた。
僕は自分のロッカーから出した国語の教科書を仁菜に差し出した。
選択科目で分かれる移動教室の時、仁菜と選択科目を一緒にしておけばよかった、と後悔することは多かった。
だけど、きっともう後悔しない。
選択科目が違っていなかったら、君を助けられなかったし、__この笑顔を見ることもなかっただろうから。
……ああ、好きだな。
小声で郁人に言われ、慌てて顔を背ける。
……ほら、やっぱり気付かない。
僕に“そういう意味”での興味がないからだ。
僕は、君が僕に背を向けて遠ざかってもまだ目が離せないくらい、君のことが好きなのに。
君の後ろ姿が角を曲がって見えなくなったら、今度は別れ際の笑顔が頭に浮かんでくる。
好きだよ。仁菜、昔からずっと、君のことが。
ねえ__僕を見てよ。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!