第6話

僕を見て
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2019/07/23 13:39
二年生の僕たちは、同じクラスでも選択科目によっていくつかに分かれる。

化学基礎の僕と、国語研究の仁菜は、これから別々の教室で授業を受けることとなる。
仁菜
あっ!しまった教科書忘れた……!
行くか、うん、そんなやり取りを郁人と交わして歩き出そうとした直前だった。

焦ったような仁菜の声に振り返ると、自分のロッカーの中を覗いて青くなっている仁菜が見えた。
クラスメイトの女子
えぇ!?教科書ないと結構やばいよ!?他のクラスに借りに行く時間ないしどうすんの!?
仁菜
え、えっと……
凛雨
僕の貸すよ
僕は自分のロッカーから出した国語の教科書を仁菜に差し出した。


選択科目で分かれる移動教室の時、仁菜と選択科目を一緒にしておけばよかった、と後悔することは多かった。

だけど、きっともう後悔しない。
仁菜
凛雨……ありがとう!!
選択科目が違っていなかったら、君を助けられなかったし、__この笑顔を見ることもなかっただろうから。


……ああ、好きだな。

郁人
そんな顔してたら気付かれるぞ
凛雨
!!
小声で郁人に言われ、慌てて顔を背ける。
仁菜
?  どうかした?
凛雨
う、ううん、何も!
仁菜
そっか。じゃあ、またね!

……ほら、やっぱり気付かない。

僕に“そういう意味”での興味がないからだ。

僕は、君が僕に背を向けて遠ざかってもまだ目が離せないくらい、君のことが好きなのに。

君の後ろ姿が角を曲がって見えなくなったら、今度は別れ際の笑顔が頭に浮かんでくる。

好きだよ。仁菜、昔からずっと、君のことが。



ねえ__僕を見てよ。

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