翌朝、僕はいつもの時間に家を出た。
玄関で見送ってくれた母さんには驚かれていた。
なんか、すごい変な感じだ。風が首元を通っていってスースーする。
慣れない感覚と、嫌な想像が頭に浮かんでは消える。
気を抜くと俯きそうな顔を、僕はしっかり前に向けて歩いていった。
公園が見えてきて、仁菜との距離がだんだん近付く。
前方から聞こえた朗らかな声は、途中で止まった。
僕は彼女の前で立ち止まり、正面からの視線に少し気後れしながらも微笑んだ。
仁菜の過剰な驚きようも無理はない。
僕が、高校に入ってから被り続けてきたフードを__被っていないから。
仁菜から視線を外して呟くと、ガッと腕を掴まれた。
詰め寄ってきた仁菜との顔の近さにドキドキしつつも、必死に彼女を宥める。
そう来るとは思わなかった。でもそうか、仁菜からしたら僕が自分からフードを脱いだとは普通考えられないよね。
僕も、昨日のことがなかったら考えなかったかもしれない。
__君に告白も、できないだろうから。
と思っていることは、絶対に秘密。
仁菜はニコッと元気づけるように笑った。
また一つ、仁菜への想いが深まったのを感じた。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!