第2話

第一話「プラスチックとカメ」
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2022/08/16 13:14
私は見渡す限りに敷き詰められている、鏡の一枚を見つめる。
その鏡からはいつも通りの誰かの日常が映っているだけ。
「異常は……ないみたいね」
「おい華花(かな)見ろ!」
私の主人から声がかかる。
あぁ、申し遅れましたね。私は木咲華花(きさき かな)、
人間なのですが訳あってある方にお仕えしています。
「なぁ!!華花聞いてるのか?」
「あっ、すみません…ただいま向かいます」
この方が私が仕えているルシファー様、
堕天使なため翼は黒く威圧的なのですが、悪い方ではありません。
ですがたまに………悪魔のような性格になられます…。
なのでなるべく刺激を与えないように私が調節してる…つもり……です。
「どうしたのですか、ルシファー様」
「なぁ!ご主人様って呼べっていつも言ってるだろ!?」
「お断りいたします。で、どうなさいましたか?」
「………ちぇっ」
ルシファー様は子供のように拗ねてそっぽ向く。気にしない……気にしない。気にしたらあの方の思い通りになってしまう。
「ここ、見てみろよ…こいついい獲物だぜ?」
ある一つの鏡を指され、私もその先を見る。
……今回はゴミ……か。なるほど……。
「あぁー、これは酷い…どう致しますか?」
「いつもどうり夢を見せるぞ
その前に華花あいつに会ってこい」
ニヤリと不気味に笑い私に命令を下される。
「はい。かしこまりました」
私たちはある特殊な方法で、この世界のバランスを保っている。
今回の件もこれまた厄介な仕事だ…。

ーーー*ーーー

俺は『海堂 林』39歳独身でいわゆるニートってやつだ。ゲームをやって楽しんでいる。
辛い現実なんて…忘れていられる。
『ブーッブー』
机に置きっぱなしにしていたケータイが振動する。名前を見ていないけれど誰からかわかる。
「あのくそババアからだろ…無視だ無視」
画面を確認することなく電源を消す。
「それよりも飯だ……腹減った」
飯もいつも宅配でたのんで食ってる。最近の食については便利になった。注文すれば家に届けてくれる。
まぁゴミを回収してくれないのは難点だな。
ゴミの収集を出す為に、人に顔を見られるのなんて正直ごめんだ。今のところ家に放置しているが…
そろそろ置く場所がなくなってきそうだ…。
誰か回収してくれないものか……。
……それか…いっそのこと近くにある海に捨ててしまおうか…?
海なら誰も迷惑がかかることがなく、夜に行ってしまえば顔を見られる心配がない…はずだ。
そんなことを考えながらネットで飯を注文していると、いつもやっているオンラインゲームから通知が来た。
「お、フレンド申請…か、どれどれ…」
[先日は助けていただきありがとうございました。]
「あぁー…前に助けたソロプレイヤーか」
礼儀正しい一文を添えて、フレンド申請されていた。このゲームで敬語なんて珍しく、ついついキャラの詳細を見てしまう。
正直そこまで強くないな…。レベルも低い。
けど、もし本当に女性なら…俺のタイプだ。
それにゲームの中の俺はイケメンだからよってきたのか馬鹿な奴めwww
女性かどうか一か八かだが…一応申請受けておこう…。
『いえいえ全然大丈夫ですよ!
あれから行けてないところとかないですか?』
こうやって話を繋げると答えざる終えなくなるはずだ。今は暇だから少し話をして本当に女性かどうか確かめたいな…。
[えっと…このボス戦というやつが悔しながら…できておりません]
『あ、そこですか!そこは少し難しいですね…僕も苦戦しました💦』
全部嘘だけどなwww
全然苦戦するところじゃねぇのにやっぱり弱いなwww。
でも…この様子だと女性……じゃないか?
まぁ少し警戒しつつ、協力してやるか…。
ーーー*ーーー
それから何週間か過ぎ、俺はあいつの手助けをやるのは毎日のようにしていた。
[申し訳ないのですが夕方までずっと手助けを頼んでもよろしいでしょうか…]
あぁ…もうそんな時間だったのか…。
毎日一日中やっているもんだから、時間の感覚が狂うな……。そこは気をつけないと。
『いいけど、ちょっと待っててね!ご飯作って持ってくるから!』
この数週間でこのプレイヤーは女性だと分かったからな。一応できる男としてのアプローチくらいはしておかないとな。
「さて……また注文するか」
それにしても、話し方といい…戦い方といい
俺のタイプに当てはまりすぎてやばいな…。
それから飯がくるまで時間を潰し、食べながらゲームを再開させた。
『今戻りました!!』
[では始めてもよろしいですか?]
『はい、行きましょう!』
さてっと…雑魚退治再開しますかぁ…。
[そういえば…もうご飯終わりましたか?]
『えぇもう食べ終わりました!』
そんな嘘をつきながら、ジャンクフードにかぶりつく。
[ではそのゴミ…どうするんですか…?]
………はぁ?何言ってるんだ…この子。
今日の飯は自作だって言ってたはず…。
[また……部屋に放置ですか?
それとも…昨日のように海にお捨てになられるのですか?]
なっ……!!?昨日バレないように夜中に行ったのにこいつに見られていたのか?
いや、で、でも…ありえない。
こいつは俺の何も知らないはずだ。なのに…なのにどうして!?
ま、まさか監視カメラや盗聴器……いや、パソコンをハッキングでもしたのか?
[犯罪などしていませんよ…]
な、何なんだこいつは…!?
意味がわからない。
「とりあえずゲームの電源を…!!!」
「反省の余地なしですね。仕方ありません。
あなたを悪夢へと招待しましょう」
「なっ……!!??」
「ゆっくりとおやすみなさい」
可憐な女性の声を耳にしてから俺の意識は無くなった。
ーーー*ーーー
「突然申し訳ありません」
意識が消える前に微かに聞こえた女性の声が
聞こえ、目を開き視線を上げる。
「お前は誰なんだ」
声のとうりに綺麗な女性……いや、どちらかというと少女…か?
見覚えがないんだが……。
「あなたは今、海亀となっていいます。
この過酷な海の中を生きなさい」
「………」
訳がわからなかった。混乱しているせいで声さえも出てこない。
急に変なところに連れてこられて俺が海亀だなんて…何を言っているんだこの女は。
「いつかあなたがやったことの重要さがわかります。説明は以上です失礼します」
突然あらわれた女は素早く説明して消えてしまった。
俺はなにもわからないまま置き去りになってしまった…。
一応、周りを眺めてみると視界全体が青い透明な色に染まっており、魚が優雅に泳いでいる。
色々突っ込みたいことはあるが…本当に海の中……なんだな。けれど…
「海亀……海亀なぁ………本当か?」
俺が海亀だというのは…どうしても信じることができない。が、確かめざるおえないため
手を視界に入れる。
「………マ…ジかぁぁ…」
あの女の言うとうりだった。
………これからどうしようか…。
ーーー*ーーー
「腹が…へったな…なにか、食い物…」
少し辺りを歩いて(泳いで)みると、澄み渡った水と、見たことのない種類の魚たちが悠々と泳いでいた。少なくとも日本の海ではないことがうかがえた。
「それにしても……これからどうやって生きていればいいんだよ……」
ため息を吐くように吐き出した独り言。
「どうしたのあなた、家族は?」
独り言なはずのに誰かの声がした。
女性の声だ。…さっきの女とは違う声。
俺は視線を声をする方へ向ける。
………そこには海亀が一匹、透き通っている海の中にいた。彼女の周りは光の反射でキラキラとしていて、とても綺麗だと思ってしまった…。
これが…運命の出会い……と言うやつなのだろうか。カメなのに俺の心はときめいて…恋をしてしまった。
「あっ、あの…最近ここにきたもので……
恥ずかしながらはらぺこなんです…」
現実じゃありえないほど口がまわる。
なぜだろう。彼女だとなんでも話せてしまいそうだった。
「それは大変でしたね……。よろしければ私の家に来ますか?少しでしたら食料がございますし…」
「ぜ、ぜひ…!」
ーーー*ーーー
それからというもの俺は彼女と幸せな日々を過ごし、ある時に婚姻を申し込んだ。
彼女の答えはOKで…俺たちの間に子供ができた。幸せで………幸せすぎて、俺はずっとこの世界に居たいと切実に思うようになった。
「なぁ、父ちゃん!俺腹減った!!」
「そろそろ自分で取ってきな、大人になるための練習さ」
俺の息子も人間で言うと10歳くらいの歳になった。そろそろあいつも教育を始めないといけないよな……。
「大人…大人かぁー…わかった!行ってくる!」
俺は息子を見送って妻のところへ行く。
「なぁ、昼飯食べるか?」
「ううん、いらない…お腹…空いてない…」
俺の妻はずっとこの調子だった。
色々な食べ物を持ってきて、聞いているがいつもお腹がいっぱいだからと、断られる。
「お前…本当に大丈夫か?」
「うん、大丈夫…安心してあなた」
俺は彼女の言葉を信じ、数日様子を見た。
しかし彼女は日に日に衰弱していき、ついには息子までも弱っていっていた。
そしてある日。
「なんで俺じゃなくあの2人が…」
俺は原因がわからずに、1人ぷかぷかと海に浮かびながら考える。
病気…とかなら治療なんてわからないし…。
ど、どうすればいいんだ……!??
「お困りのようですね。お久しぶりです何年ぶりでしょうか」
聞いたことのある声……!?
その声のした方を見ると俺がカメになった日にいたあの女だった。
「お前っ!?あの時の女!!お前が何かしたのか!?」
俺があの女に急速に近づこうと加速する。
が、大きな手のひらにに叩かれる。
「なぁ、俺の華花に何してくれてんの?」
鬼のような形相で、いつのまにか俺の前に立っていたのは、黒い羽の生えた男だった。
明らかに人間ではない……。もしや、俺をこんな姿にしたあの女も人間ではないのか…?
「ルシファー様おやめください私は貴方のものではありません」
「ちぇっ、いいじゃんかカッコつけても…」
男が女を助けたはずなのに、冷たく対応されている。な、なんだ…?あいつら仲間とかじゃないのか?
「ほ……ほんとにお前らなんなんだよ…」
「あら…自己紹介がまだでしたね。
この方は堕天使ルシファー様。私はこの方に仕えるメイドの華花と申します」
「そういうことを聞いてんじゃねぇんだよ!ここに俺を連れてきたのはお前らなんだろ?
なら、俺の家族に何があったか知ってるんだろ!!??」
俺はこんな大変な時にのうのうとしているあいつらに、腹が立って仕方がない。
「申し訳ありません、これは私達のせいではありません」
俺をここへよこしたのはあいつらだろうが、
この状態を作った原因はこいつらではないと俺は分かっていたはずだった…。
やっぱり……そうなんだな…。でも………
「じゃあ誰が!!!誰が俺の家族を壊そうとしてるんだ!!?教えてくれよ……。頼む……頼む…」
泣き出してしまいそうだ。
俺の家族がが心配で心配でたまらない…。
「お前本当にバカかよ……まぁいい。見せてやるよ…お前に……真相を」
『パチン』
彼はニヤリと笑いながら指を鳴らす。
すると、目の前に映像が映し出された。
それは妻と息子が食べ物をたべているという映像だった。
「……っ!!これのどこが真相なんだよ!?ふざけてんのか!!」
「いえ、我々が見せているのは真相ですよ。
なにもふざけてなどおりません」
い、意味がわからない…!!?
「あのカメたちの食べてるものを良く見てみろよ。普通の餌ではないだろう?」
「はぁ…?食べてるもの………?」
目を凝らしてよく見てみる。
それは、明らかに魚の色ではなく………。
「……なんだ…これ」
「これはプラスチックです。あなたは聞いたことないんですか?現代の環境問題を。
でもそれはそうですよね…引きこもったニートなら知るはずもない」
「それにこのプラスチックお前が海に捨てたものだぞ?
お前が現実から、義務から逃げてめんどくさがった末路だ」
はぁ…てことは…あいつらが弱ってるのって…
「……俺のせい………かよ…」
それがわかった瞬間に、何か重たいものが肩にのしかかった感覚に陥る。
重たい……とても…重たい……。
「お前がやったことの重大さに気が付いたか」
男はまだ、ニヤリと笑った表情を変えず
言葉を続けた。
「そんなお前に選択肢をやろう」
「その1、お前は現実から逃げ続けこの世界で生きる。お前の家族が死ぬざまを見ながら一生暮らし続ける。
その2、家族は助けてやる、だがお前は人間に戻りこれまでの誤ちを悔い、苦労しながらも普通の人として生きる。
1は残酷結末だが、2は永遠と地道な苦しみが与えられる。…辛い現実へと引き戻される。
さぁお前はどっちを選ぶ。
俺は容赦なくお前の家族を殺せるが…?」
なんて……残酷な選択をされるのだろうか。
「俺が…社会に復帰できない理由…知ってるよな……」
「それを承知の上で聞いています。
だから2は地道だとルシファー様はおっしゃっているのです」
なるほどな……苦しみを与えられるのは絶対ってことか…。
まぁ…当たり前だよな。
現世でも、この世界でも。何一つ努力をしていないのだから。けれど、俺の答えは決まっている。
「そんなの、2に決まってるじゃないか…
あいつらが生きているだけでいい…
俺の人生はどうでもいいさ」
「どうでもいいなんてあるわけないだろ?
お前が前のようにゴミを海に捨てたり、ろくでもない人生を歩んでたら容赦なくあの亀殺すから」
さっきよりも威圧的に言われる…。
けれどなぜだろう。怖くは感じない。
今の俺ならできる気がしてきた…。
「あぁ、わかってるさ。やってやる」
「ふっ…いい顔じゃないか。華花、戻してやれ」
「かしこまりました。ルシファー様」
あぁ………最後妻にお礼言いたかったな…。
絶対前みたいな人生歩まないように頑張るからさ。……愛してくれてありがとうな。
「では参ります」
「あぁ、頼む」
ーーー3年後ーーーーーーーーーーーーーー
「海堂さん!これ、どこにおいておけばいいですか?」
「あぁ、そこに置いておいてくれ」
あの不思議な夢からちょうど3年がたった。
本当にあったことなのかわからないが、俺はあの日から部屋を掃除し、社会人として働けるよう職を探した。
最初はうまく行かなかったけどやっとの思いで入れた会社は周りの人も優しくて、良い関係を築いていけた。
この世にはブラック会社だけでないと…初めて気づけることができた気がした。
「海堂さんの家ってめっちゃ綺麗ですよね
なにかコツとかあるんですか?」
「あぁコツはなぁ、ゴミの分別をしっかりしてリサイクルとかやることだな!
この辺は海も多いし…海を綺麗にしてやりたいと思ってやると自然と心がけられるのさ」
「なんですかそれ…!
けど……そうですね。僕らの会社は海と共に協力していかないと成り立たないですから、
海を大切にしてやりたいですね!!」
「そうだなぁ……。
今度一緒にボランティアでもするか?」
「おぉいいんですか!ぜひやりましょう!」
堕天使と恐れられていたルシファーと、華花という少女に俺の人生は変えられた。
もしももう一度会うことができるのならば、
彼らにお礼を言いたいと切実に願っている。
ーーー*ーーー
「どうです…彼は。何か変わりましたか?」
「ほら見てみろ、案外楽しそうだぞ?」
「……本当ですね。
今回は成功ですかね、ルシファー様」
「そうだな、この世界はもう大丈夫そうだ。
あいつから今後も海を守る活動が増えるだろうからな」
「それは…未来視ですか……?」
「いいや、天使の勘さ」
ルシファー様は堕天使ですが……。まぁ…スルーしておきましょう。
「うーん…でも亀、一度殺してみたかったなーじわじわと痛めつけてさぁ。
そしたら…あいつどんな顔してたかな?」
さっきの無邪気な顔とは一変して、悪魔のような顔をなされる。
「…ルシファー様ってたまに怖いですよね」
「大丈夫だよ、お前は特別だから」
また、表情が変わった……。本当に不思議な方だ。ルシファー様が完全な『悪者』にならぬように私が管理をしなければ……。
とはいえ、本当によかった。
今回、あの人がしっかり新たな道を歩いてくれて。
これからもそのような人間が増えればいいのですが……。
それならばルシファー様はこんなことをしなくて済むはずなのに…。

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