「愛乃~!待った?ごめん!」
あの時から何も私達の関係は変わっていない
そりゃそうだよね、
私は隠してこの子は気づいてないのだから
気づかせない、絶対
そうじゃないと、私達の関係は…
「ねぇねぇ写真撮ってるんだからこっち見てよ愛乃~」
「え~めんどくさい、ご飯冷めるよ」
こんな二人が好きなんだ、
私がデレデレでこの子は素っ気なくて
でもお互いが、
『好き』同士でこれでいいんだ
私の好きが変わっても、
好きなのに変わりはないから、
この二人の関係を、愛乃の笑顔を失うわけにはいかない
毎日楽しいのは愛乃がいるからなのだ
だから、私は…
「ねぇねぇ愛乃~」
今までの接し方を私は忘れてしまった
完全に愛乃を見る目が変わってしまったのだ
だから、ごめんね、
いやらしい気持ちとかはないんだよ
寄り添って手を繋ぐ私、
少し驚いてから、
軽く笑って何事もないかのように過ごす愛乃
胸を高鳴らせるのは私だけなのだと
そう感じる瞬間、私は寂しくなった
愛乃に、何も望んでないはずなのに
今までと同じ生活で十分幸せなのに
愛乃と一緒にでかけた日は、いつも私が家まで送り届ける
心配もあるけど
少しでも一緒にいたいから、だなんてこのこは知る由もないのだろう
「愛乃、帰ったらまた連絡する」
「うん、待ってる~」
ばいばい、と手を振って背中を向け
家に入ろうとした瞬間
私の足は、手は、勝手に動いていた
何も考えていなかった
どうなるかなんて考えていなかった
ただ、私はほんの少しだけ残っていた理性を働かせ、唇ではなく、
___頬に軽くキスをした
確かに感触があって
確かに体温があって
確かに愛乃は目を丸くさせていた
慌てて誤魔化そうとしたけど頭は働かなくて、
私は咄嗟に笑顔をつくった
「ふふ、愛乃が可愛いから~ばいばい、」
私の笑顔を見て、安心したのか
「びっくりしたなぁ、ばいばーい」
にこりと笑って、家に入っていった
そんな反応されると、
大丈夫なのかもって思ってしまう
『そういうこと』をしても、嫌じゃないのかと
『そういうこと』をする対象に私が入ってもいいのかと
自分でも顔が赤くなってると気づくほど熱い頬に手をあて、さっきのことを思い出す
「愛乃、」
好き、
その言葉は声にはならず心の中に重く響いただけだった
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。