「ジェシカは狼伝説って知っている?」
いきなりこんな会話から始まり、私は少し頭を悩ませた。狼伝説とは誰でも知っているいわばお伽噺の様なものである。何故真剣な話という事なのにこんなことから始まるのかが想像がつかなかった。
「え…えぇ一応知っておりますが…それとこれとはなんの関係があるのでしょうか?」
ロディは少し怪訝そうな顔をして言葉を紡ぐ。
「単刀直入に言うね…狼伝説の中に人狼っていう狼が居たじゃん?その人狼が僕達を襲って来るっていう予言が出たんだ…」
「人狼…人狼ですか…」
「そうだ…僕だって、ジェシカだって、サンドラだって、マイクだって生きて帰れるかは分からない。だがこれだけは約束するよ。ジェシカ、君は守るから。何を犠牲にしても、君だけは絶対に生きて帰らせる。例え僕の命と引き換えにしてもね」
「それって…?」
「あはは…何でもないんだ。さ、こんな話は置いておいて速くお茶を飲もうよ。ジェシカ」
「……分かりましたの。すぐに用意しますわ」
一瞬ロディの顔が真剣だったのは気のせいであろうか?私はよくわからないままお茶の用意を進めるのであった。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!