第17話

最終話 最期の約束
682
2018/07/31 14:54
みや
みや
金曜日はじんたん、1日中悶え苦しんでた...。
それでも、送られてくるメールに返事を打つためにスマホだけは握って離さなかった...。
テオくん
テオくん
...そこまでしてじんたんは俺の事を...。
みや
みや
...でも、じんたんはまだそれだけじゃ終わらなかった。
テオくん
テオくん
...?
みや
みや
次の日...じんたんが俺らと出かける約束していた、今日の事。
テオくん
テオくん
!...まさか...
俺は何かを悟っていた...
そして血だらけになった入り口と、這うようにして残っていた床と階段の血痕...
それが付いていた理由...
全てが繋がった。

繋がってしまった。
じんたんは死ぬ覚悟で、テオくんに会いに行こうとしたんだ。
...テオくんとの約束を果たすために。
テオくん
テオくん
!......
その瞬間、俺は膝から崩れ落ちた...。
みや
みや
どれだけ俺と看護師さん総出で押さえつけても、じんたんの歩みは止まらなかった...。
本来なら指一本動かせないはずなのに...

本当にテオくんに会いたかったんだろうね。
ー数時間前ー










じんたん
じんたん
ゴボッ!ゴボボッ!
看護師さん
いけません!藤枝さん!!
安静にしていてください!!
みや
みや
じんたん!!やめて!!そんなことしたら本当に死んじゃうよ!!
じんたん
じんたん
別に...いい...よ!
...テオくんに...会いに...行かない...と!!!
大量の血を吐きながら、彼は床を這うようにして廊下を歩き...そして...
«ゴトンゴトンゴトンゴトン!!! »
みや
みや
じんたん!!!
階段を転げ落ち、踊り場に激しく体を打ち付けた...
どうやら頭を強く強打し、その時に頭を切ってしまったようで、頭部からの出血が著しかった...。
...それでも彼は、立ち上がった...。
じんたん
じんたん
絶対...に...ぜっ......たい......!!
じんたん
じんたん
テオくんに.........!!!
だけど..入り口まで辿り着いたところで...
じんたん
じんたん
ゲホッッ!!ゲホッッ!!!
今まで以上の量の血を吐き、じんたんの身体は本当の意味で限界を迎えていた...。
じんたん
じんたん
...嫌だ......諦めたく......ない!!!
しかし、俺の意思とは裏腹に徐々に視界が霞んでゆく...
じんたん
じんたん
ッ...!もう...ダメか...。
俺は、最後の力を振り絞って懐から大きめのナイフを取り出し......
じんたん
じんたん
(本当はテオくんに会ってきた後にやるつもりだったけど...テオくん...ごめんね...。)
じんたん
じんたん
(約束...守れなかったよ...)
「!!!!!!!!!!」
...そのまま自らの首を切り、致死量の吹き出しながら息絶えた...。
じんたん
じんたん
(...さよなら、テオくん...。)
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
みや
みや
...それでじんたんは、テオくんに会う前に死んじゃった...。
テオくん
テオくん
...じん...たん...
今は亡骸となった友達に向かって、俺にとって1番大事な名前を呼びかける...
当然、返事はない...。
テオくん
テオくん
じんたん...!!
この名前を呼ぶと、じんたんはいつも笑ってくれた。
けど、そんなじんたんももう居ない...
ただあるのは、どうしようもない孤独感だけだった...。
みや
みや
はい。これ。
テオくん
テオくん
...?
俺は、ゆっくりと血の滲んだ1枚の紙切れを受け取った。
みや
みや
じんたんの患者服の下から出てきたやつ。



゛テオくんへ「1027」゛
テオくん
テオくん
1027...?
みや
みや
...きっと、この金庫の鍵の番号だと思う。
そういうと、みやは両手で持てるほどの小さな金庫を俺に差し出した。
みや
みや
...テオくんが開けて?
テオくん
テオくん
......
俺はゆっくりと鍵の番号を動かし...
...金庫を開けた。
...そこには、1冊のノートが入っていて
...俺はそのノートを手に取り、付箋のページを開いてみた。
テオくん
テオくん
...これは...!
じんたん
じんたん
ー遺書ー

テオくんへ
テオくんがこの遺書を見てるって事は、俺がゲームに勝ったってことだね!
テオくんの悔しそうな顔が目に浮かんで、今もニヤけが止まらないよ!

...それでも、俺はテオくんに謝らなきゃいけない。
俺が病気だって事を隠していた事...テオくんには俺を「1人の普通の友達」として見て欲しかった...
自分勝手で、ごめんね。

それともう1つ、これはもう気づいてるかもしれないけど...最期だから伝えとくね。
...作戦、作戦って言ってきたけど...
俺は本当に、心の底から「テオくんに死んで欲しくない」って思ってたんだ。...そもそも、テオくんをこのゲームに誘ったのも「テオくんの自殺を止めるため」...テオくんには「生きることの素晴らしさ」を知って欲しかったんだ。この世界には「生きたくても生きられない人」がいる。俺みたいにね。
だからこそ、まだまだ先の長い...なおかつ人並みでない正義感を持つ立派なテオくんにはどうしても生きて欲しかったんだ。だから俺は数少ない残りの人生をテオくんに捧げるって決心できた。


もしかしたら早朝に呼び出したり、1日に何回も出かけたりいきなり家に押しかけたり...色々迷惑だったかもしれないけど...
ごめんね。俺には「時間がなかった」んだ...。
テオくんに生きる楽しさを知ってもらうには俺が生きてる間じゃないといけないからね。


俺には、「人の役に立つ事がしたい」っていう将来の夢があったんだ。...この「自殺競争」がテオくんの役に立ったのかは分からないけど...もし少しでも、テオくんに生きる希望が芽生えたのなら、俺は嬉しいな。
テオくん
テオくん
...!
やっぱりそうだった...
じんたんは決して遊びなんかで俺に付き合ってた訳じゃない...
最初から俺の自殺を止めるために、自分を犠牲にしてまで俺に尽くしてくれたんだ...!
じんたん
じんたん
さて、前置きはこのくらいにして、俺からの最後のお願いの発表と行こうかな...。
なんでも聞くって約束だもんね!
俺からのお願いは...
じんたん
じんたん
「これからも精一杯生きること」
じんたん
じんたん
...ただ、それだけだよ。
先が決まってる俺とは違って、テオくんにはまだ無限大の可能性を秘めた未来が待っている...それにひたすら突き進んでほしいんだ。
決して、俺を追うような真似はしないように。
もしそうしようとしても、約束を破ったテオくんは地獄行きになって、天国の俺とは会えないからね!(笑)
...それと共にテオくんには「俺が生きていた証」になって欲しいんだ...。
テオくんには自分の足で大地に立って、胸を張って生きる。...それだけで、そんな立派なテオくんを復活させた俺がこの世界で生きていた証になれる。それで、夢を叶えられた俺も「生まれてきて良かった」って思えるから...。
それが本望だからね。


...これから先にどんな辛いことがあっても、テオくんならきっと乗り越えられるはずだよ!
...空の向こうからずっとテオくんを見てるから
「辛い時は空を見上げてみて!」
俺が応援のメッセージを送るから!


...今はただ、俺が死んじゃった事をを受け止めて...それを乗り越えて。もしかしたら、テオくんには辛い出来事かもしれない...それでも、テオくんならできる。これを踏み台にして、この先も生きていけるからさ!
...俺の分まで、強く生きてね!



それじゃあ、さようなら!

藤枝仁より



目頭が熱い...久しぶりのこの感覚はなんだろう...。
病室の鏡をのぞき込むと...
テオくん
テオくん
...!
涙でくしゃくしゃになった俺のみっともない顔が映っていた。
テオくん
テオくん
...さようならなんて...言わないでよ...!
みや
みや
...テオくん。
テオくん
テオくん
!...
一瞬、じんたんに呼ばれた気もしたが、振り返るとその声の主はみやだった。
...かつてのように「テオくん!」...と元気に呼ばれるのとは違う。落ち着いた声...。
だけど、幼なじみだからかやっぱりどこか似てる...。
みや
みや
本当にありがとう。
...じんたんは自分の使命を果たすことが出来た。
...最期にテオくんに会えなかったのは確かだけど
...じんたんは数日前からいつ死んでもおかしくない状態だった...。
...それでも、今日まで生きてこられたのは紛れもなく、テオくんがいたからだと思う。
ゆっくりとみやに歩み寄る...。
すると、みやも俺を受け入れるように
俺を抱きしめた。
テオくん
テオくん
うわあああああああああああ!!!!!
ダムが決壊するが如く、俺は、みやの腕の中でひたすら泣いた。
高校生らしくない、幼い子供みたいに。
気づけば、みやも泣いていた。
悲しい...悲しい...悲しい...
大切な人を失う事が、こんなに辛い事とは思いもしなかった...。
テオくん
テオくん
...。
テオくん
テオくん
なんか、ごめん。
みや
みや
大丈夫。気持ちは分かるから。
テオくん
テオくん
...俺はもう泣いたりしない。
今度は俺が、「強く生きる」っていうじんたんとの約束を果たすよ。

...それに...
テオくん
テオくん
こんな事だったら、天国のじんたんに笑われちゃうからね
俺は、みやに微笑んでそう言った。
...そこには、かつての俺が完全に戻って来ていた。

正直に笑え、希望に向かって生き続けていたかつての俺が...。
...いや、もしかすると、それは違うのかもしれない。
俺にじんたんが乗り移ってしまったような...そんな気持ちになった。
じんたんは今もこうして、俺の中に生き続けている。

...じんたんは空を見上げてなんて言ってたけど、そんな必要はないんだ。じんたんはずっと、゛ここ゛にいる。
俺はじんたんが生きた証として、これからも生き続けてやるんだ!
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
テオくん
テオくん
__とまあ、こんな感じかな。
こうして俺は大人になって、今も胸の中にじんたんが居ると信じているからこそ、こんな変な癖が治らなくなったのかもしれない...。
つまりあんなに短い間だったのに、未だに俺はじんたんに縛られ続けてるってわけ。
...本当、図々しいにも程があるよね。
テオくん
テオくん
今俺は、警察官をやっている。
「自分の正義を貫く事」を念願に置いて、職務を全うしている所だ。
...今のこの俺がいるのは、紛れもなくじんたんがいたから。

...あの時、校舎から飛び降りていたら...
なんて考えると、夜も眠れないよ。

...じんたんには本当に感謝してもし切れない...。もちろんみやも。

俺には、じんたんへの返しきれない恩と

お寿司屋さんの1000円の借金があるからね(笑)



...ありがとうじんたん
...あなたとの約束通り俺は...
今日も元気で生きています。

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