黒い男。
どこで見かけたんだろう。
記憶の端にちらほら、現れては私を苛まさせる、影。
初めて見掛けたのは、もういつか覚えていなくて。
でも確かに、彼は存在していて。
例えるなら、そう。
ーー守護霊とは真逆の存在の
“苛まされないで”
突然、美しい声が聞こえた気がした。
まるで私をそれは助けるみたいに、悪い誘惑に導かれない様に囁く声。
……きっと私を護っている存在、なのかも。
そう。彼が見えた時はいつも。
その後ロクなことは起こらないの。
ある意味では警告。
ーーそれとも呪い。
今日も帰り道で現れた。
道端に、立っている。
黒いシルクハット、黒い外套に、背広に身を包んで。
深く被った帽子の奥に視線は隠されて、見えることはない。
ーーああ。また、何か起こるんだ。
薄暗い予感だけが重く肩にのしかかった気がして。
次の日、友達の大切にしていたペットが息を引き取った知らせを聞いた。
もう老齢だったから、きっと寿命。
それとも?
黒い男が今日も現れないことを祈って、私は玄関の扉を開けた。
1日が、始まるーー
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。