第11話

第11話 新しい生活
2,580
2023/05/24 23:00
 ──教室にて──

 湯川サエは戸惑っていた。
鈴木エイミ
鈴木エイミ
これは何?
姫野ユリ
姫野ユリ
何って、ピュルグミだけど
鈴木エイミ
鈴木エイミ
……?
姫野ユリ
姫野ユリ
知らないの?
食べてみなよ
 エイミはおそるおそるグミを手にし、口に運んだ。
鈴木エイミ
鈴木エイミ
……!
鈴木エイミ
鈴木エイミ
お、おいしい……!
鈴木エイミ
鈴木エイミ
こんなおいしいお菓子、生まれて初めて食べた……
 ユリや女子生徒が笑った。
女子生徒
ピュルグミ初めてってさすがに嘘でしょー
姫野ユリ
姫野ユリ
やっぱエイミって面白いわ
 ユリとエイミは、ご主人様と下僕の関係から一転、友だちになっていた。
湯川サエ
湯川サエ
(二人の間に何があったんだろう?)
湯川サエ
湯川サエ
(何にせよ、すごくいいことだよね)
(うふふ、妄想がはかどる)
 サエの趣味は人間観察だ。
湯川サエ
湯川サエ
(たとえば、姫野さんの大ピンチを鈴木さんが救って、親しくなったとか)
(最近流行の武闘派ヒロインみたいにね)
 先日見たアニメのキャラクターと重ね合わせる。
 見た目や人間性もそっくりだ。
湯川サエ
湯川サエ
(なーんてね)
(現実でそんなことあるわけないけど)
 ──放課後──

 エイミは、どの部活に入ろうか迷っていた。
鈴木エイミ
鈴木エイミ
(ユリにはテニス部に誘われたけど……)
(なるべく身体を動かさない部活がいい)
 ボスの命令は潜伏だ。
 身体を動かすと、自分が普通でないことがバレてしまう。
 常に演技するのも大変なので、目立たないようにしたい。
鈴木エイミ
鈴木エイミ
(やっぱり文化系かな)
 校内を歩きながら、しみじみと思う。
鈴木エイミ
鈴木エイミ
(それにしても)
(私が入る部活に悩むような日が来るなんてね)
 生まれて初めて経験する、平穏な生活だった。
 それはとても新鮮で、心地よさを感じる。
鈴木エイミ
鈴木エイミ
(でも)
 先日の半グレ集団の件を思いだす。
鈴木エイミ
鈴木エイミ
(ほんの身近に悪はいる)
(平和や平穏は、簡単に崩れ去ってしまうんだ)
(油断してはいけない)
 改めて気を引き締める。
 そのときだった。
姫野ユリ
姫野ユリ
あ、エイミ!
 部活動を終えたユリと会った。
 エイミたちは一緒に帰ることになった。
 エイミはユリに誘われてゲームセンターにやって来た。
鈴木エイミ
鈴木エイミ
(ここがゲーセンってやつか)
 これまで訓練と諜報活動に明け暮れてきたので、当然、娯楽施設に来るのも初めてである。
姫野ユリ
姫野ユリ
何しよっかー?
鈴木エイミ
鈴木エイミ
といわれても……
こんなところ初めてだし
姫野ユリ
姫野ユリ
え、マジで!?
姫野ユリ
姫野ユリ
あんた、今までどういう生活してたのよ……
 曖昧な笑みを浮かべて誤魔化す。
 視線を逸らすと、見慣れた物が目に入った。
 それは、サブマシンガンの模型だった。
姫野ユリ
姫野ユリ
あのゲームがやりたいの?
鈴木エイミ
鈴木エイミ
どういうゲーム?
姫野ユリ
姫野ユリ
迫りくるゾンビをあの銃で撃ちまくるんだよ
協力プレイできるし、やろっか!
 ユリに促され、エイミは銃を手に取った。
鈴木エイミ
鈴木エイミ
(見た目はD国製のMP7)
(実銃はとても使い勝手の良いサブマシンガンだけど)
(ゲームではどうかな?)
姫野ユリ
姫野ユリ
さ、始まるよー
 画面から大量のゾンビが襲ってきた。
 ユリはキャーキャーはしゃぎながら撃っている。
姫野ユリ
姫野ユリ
ほら、エイミも撃って!
 エイミは引き金を引いた。
 画面内で派手なエフェクトが発生し、ゾンビにいくつもの弾丸が命中する。
鈴木エイミ
鈴木エイミ
(撃っても反動がないから違和感がすごい)
(でも)
 エイミは神経を研ぎ澄まし、銃を握りしめた。
鈴木エイミ
鈴木エイミ
(どんな銃でも使いこなしてみせる)
 エイミはα機関で一番の銃の使い手だ。
 画面に集中し、迫りくるゾンビに銃口を向け、引き金を引いた。


 ──ゲーム終了後──
姫野ユリ
姫野ユリ
え、ハイスコア更新!?
 ユリは呆気にとられるようにいった。
姫野ユリ
姫野ユリ
すごいじゃない!
 ユリははしゃいでいるが、エイミは少し不満だった。
鈴木エイミ
鈴木エイミ
(何度か狙いがそれて撃ち漏らしてしまった)
(もしこれが現実なら、致命的なミスに繋がっただろう)
 心の中で、自身の未熟さに舌打ちする。
鈴木エイミ
鈴木エイミ
(まだまだ、訓練が足りない)
姫野ユリ
姫野ユリ
エイミ!
鈴木エイミ
鈴木エイミ
な、何?
姫野ユリ
姫野ユリ
だから、すごいっていってるでしょ!
鈴木エイミ
鈴木エイミ
う、うん
姫野ユリ
姫野ユリ
あんたこういうゲーム初めてなんでしょ?
何でそんなにうまいのよ?
鈴木エイミ
鈴木エイミ
(そりゃ、実際に何度も撃ったことあるし)
 でも、そんなこといえるはずがない。
鈴木エイミ
鈴木エイミ
もしかしたら、才能あるのかも
姫野ユリ
姫野ユリ
アハハ、女子高生に銃の才能って
 ユリはあっけらかんと笑った。
 エイミは、作り笑いで誤魔化した。
 ゲームを楽しむエイミたちを、離れた場所から見ている男たちがいた。
男性A
あの子か?
男性B
レベル高いな
男性C
さっさとやっちまおうぜ!
 男たちは、下卑た笑い声を上げた。

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