──教室にて──
湯川サエは戸惑っていた。
エイミはおそるおそるグミを手にし、口に運んだ。
ユリや女子生徒が笑った。
ユリとエイミは、ご主人様と下僕の関係から一転、友だちになっていた。
サエの趣味は人間観察だ。
先日見たアニメのキャラクターと重ね合わせる。
見た目や人間性もそっくりだ。
──放課後──
エイミは、どの部活に入ろうか迷っていた。
ボスの命令は潜伏だ。
身体を動かすと、自分が普通でないことがバレてしまう。
常に演技するのも大変なので、目立たないようにしたい。
校内を歩きながら、しみじみと思う。
生まれて初めて経験する、平穏な生活だった。
それはとても新鮮で、心地よさを感じる。
先日の半グレ集団の件を思いだす。
改めて気を引き締める。
そのときだった。
部活動を終えたユリと会った。
エイミたちは一緒に帰ることになった。
エイミはユリに誘われてゲームセンターにやって来た。
これまで訓練と諜報活動に明け暮れてきたので、当然、娯楽施設に来るのも初めてである。
曖昧な笑みを浮かべて誤魔化す。
視線を逸らすと、見慣れた物が目に入った。
それは、サブマシンガンの模型だった。
ユリに促され、エイミは銃を手に取った。
画面から大量のゾンビが襲ってきた。
ユリはキャーキャーはしゃぎながら撃っている。
エイミは引き金を引いた。
画面内で派手なエフェクトが発生し、ゾンビにいくつもの弾丸が命中する。
エイミは神経を研ぎ澄まし、銃を握りしめた。
エイミはα機関で一番の銃の使い手だ。
画面に集中し、迫りくるゾンビに銃口を向け、引き金を引いた。
──ゲーム終了後──
ユリは呆気にとられるようにいった。
ユリははしゃいでいるが、エイミは少し不満だった。
心の中で、自身の未熟さに舌打ちする。
でも、そんなこといえるはずがない。
ユリはあっけらかんと笑った。
エイミは、作り笑いで誤魔化した。
ゲームを楽しむエイミたちを、離れた場所から見ている男たちがいた。
男たちは、下卑た笑い声を上げた。
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!
転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。