第8話

第8話 アジトに潜入せよ
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2023/05/03 23:00
 ノワールの情報収集により、リュウジら半グレ集団のアジトを特定した。
 エイミはそこにいくつかの仕掛けをし、家に戻った。
ノワール
ノワール
ボスの命令は潜伏でしょ
こんな派手なことしていいの?
鈴木エイミ
鈴木エイミ
命令は絶対だけど
α機関の諜報員として、平和と平穏を乱す奴らを見過ごせない
 ノワールは含み笑いをする。
ノワール
ノワール
そんなこといっちゃって
本当は、ユリって子が可哀想だから助けるんでしょ
鈴木エイミ
鈴木エイミ
別にそういうのじゃ──
ノワール
ノワール
いいのいいの、わかってるから
ラブルのそういう優しいところも好きだよ
 ふん、と鼻から息を吐き、エイミは感情をごまかした。
 ──翌日、学校にて──
姫野ユリ
姫野ユリ
あ、あの
鈴木エイミ
鈴木エイミ
何ですか?
姫野ユリ
姫野ユリ
その、放課後……
行ってほしい場所があるの
鈴木エイミ
鈴木エイミ
わかりました、ご主人様
姫野ユリ
姫野ユリ
(無邪気な笑み、浮かべちゃって……)
(あんたは、私の代わりに……)
鈴木エイミ
鈴木エイミ
どうかしましたか?
姫野ユリ
姫野ユリ
う、ううん
何でもない……
鈴木エイミ
鈴木エイミ
命令があれば何でもいってください
私はあなたの下僕ですから
姫野ユリ
姫野ユリ
(本当に、いいの?)
(鈴木エイミを売って、私だけ助かろうなんて……)
(そんなことして、本当に……)
 ──放課後──
姫野ユリ
姫野ユリ
それじゃ、ここに向かって……
 姫野ユリは、リュウジに指定された場所を鈴木エイミに教えた。
鈴木エイミ
鈴木エイミ
わかりました
それじゃ、行ってきます
姫野ユリ
姫野ユリ
ちょっと!
何も聞かないの!?
姫野ユリ
姫野ユリ
ここに行って何をするとか
誰が待ってるのとか……
 すると、エイミは微笑を浮かべた。
鈴木エイミ
鈴木エイミ
必要ありません
ご主人様の命令ですから
きっと行けばわかると信じています
姫野ユリ
姫野ユリ
(何なのよ、こいつ……)
(自己紹介のときも変な奴だったし)
姫野ユリ
姫野ユリ
(テニス勝負では明らかな手加減をするし)
姫野ユリ
姫野ユリ
(あたしの無茶な命令も難なくこなすし)
姫野ユリ
姫野ユリ
(怪しい命令だって素直に聞くし)
 エイミは背を向け、指定された場所に向かおうとする。
 たしかに気に食わない奴だが、それでも。
姫野ユリ
姫野ユリ
ま、待って!
姫野ユリ
姫野ユリ
(やっぱりダメ!)
(身代わりになんてしちゃ──)
鈴木エイミ
鈴木エイミ
大丈夫ですよ
 エイミは顔を横に向け、視線だけこちらに向けてきた。
鈴木エイミ
鈴木エイミ
安心してください
絶対、大丈夫ですから
 ユリは何もいえなかった。
 エイミはそのまま去って行った。
姫野ユリ
姫野ユリ
(大丈夫なはずない)
(あいつだって、普通の女子高生なんだから)
(リュウジたちにかなうはずがない!)
 ユリは、エイミの後を追った。
 ──ひと気のない路地──
ガラの悪い男
君が鈴木エイミちゃん?
鈴木エイミ
鈴木エイミ
そうですけど
チンピラ風の男
うひょー、可愛い!
ユリの野郎、嘘つきやがって
こっちのほうが断然可愛いじゃねーか!
ガラの悪い男
まあまあ、俺たちにしてみればありがたいことだ
鈴木エイミ
鈴木エイミ
あの、あなたたちは……
チンピラ風の男
へへ、ちょっと来てもらいたい場所があるんだ
鈴木エイミ
鈴木エイミ
い、いや!
 エイミは普通の女子高生っぽい演技をして逃げようとする。
 そのとき。
ガラの悪い男
おっと、待ちな
 背中に強烈な痛み。
 全身に電気が流れるような感覚があった。
ガラの悪い男
リュウジさんから借りたスタンガンだ
しばらくおねんねしてな
鈴木エイミ
鈴木エイミ
…………
 エイミはスタンガンが効いたフリをして、わざと地面に倒れ伏した。
鈴木エイミ
鈴木エイミ
(残念ながら、この程度の出力じゃ私には効かない)
 養成所にいた頃、様々な拷問を受ける訓練をした。
 その中にはスタンガンによる攻めも当然あった。
鈴木エイミ
鈴木エイミ
(私を無力化したかったら、クマを失神させるほどのスタンガンを持ってきなさい)
 倒れたフリをしたエイミを、男が抱えようとする。
ガラの悪い男
何だこの子、見た目の割にけっこう重いな
ちょっと手伝ってくれ
チンピラ風の男
着痩せするタイプなんじゃないっすか
ひん剥くのが楽しみっすね
 日々鍛えているため、エイミの身体は筋肉に覆われている。
 ただ、諜報員として、あまりにも筋肉質だと目立ちすぎる。
 鍛えるだけでなく、筋肉の上に脂肪をのせることで、普通の女性のような見た目にしているのだ。
鈴木エイミ
鈴木エイミ
(失神したフリをして、アジトに潜り込もう)
 ユリは、リュウジが指定してきた場所に向かった。
姫野ユリ
姫野ユリ
はぁ、はぁ……
姫野ユリ
姫野ユリ
いない……
 間に合わなかったようだ。
 エイミが、リュウジたちに連れ去られてしまった。
姫野ユリ
姫野ユリ
(もう迷っていられない)
(警察に通報しよう)
 父親の出世、自分の生活など、失うものはある。
 だけど、エイミを見捨てることはできない。
 ユリはスマホを取りだし、警察に通報しようとしたところで──

 バチィ!
姫野ユリ
姫野ユリ
あっ
 強烈な痛みに襲われ、まもなく意識を失った。

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