ラブルは、鈴木エイミとして女子高生になった。
そして、初めての登校日を迎えた。
先日、ボスから『ニホンの女子高生について』という資料を渡されていた。
その中には、『朝はパンをくわえて登校すること』と書いてあったのだ。
危うくボスの冗談にはめられ、二人にバカにされるところだった。
シラーズはリップを差しだした。
この業界に身を置いていると、いつ何が起こるかわからない。
武器は常に携帯しておきたいものだ。
実際、組織の裏切り者がいつ襲ってくるかわからないのだから。
学校に向かう途中。
エイミは異変に気づいた。
家を出てすぐ、何者かの気配がずっとあった。
つかず離れず、ずっと後をつけられている。
バッグから手鏡を取りだし、化粧を直すフリをし、背後を確認した。
電信柱の陰には小太りの男がいる。
スマホを手に持ち、チラチラとこちらを窺っていた。
プロではない。
すぐにわかった。
エイミはわざとスマホを落とし、上体を曲げて拾おうとする。
同時にさりげなく背後を確認した。
すると、男はスマホを両手でいじりだした。
手の動きから、ズーム機能を使っているようだ。
こちらの無防備な動きにより、あちら側には下着が見えているはず。
その瞬間を逃すまいと、男は慌ててカメラを操作したのだろう。
スマホを拾い、歩きだす。
角を曲がった後、すぐさま塀を乗り越え、敷地内に入る。
音を立てないよう、しかし迅速に移動し、再び塀を乗り越えた。
驚いている男の背後にそっと降り立つ。
右腕を男の喉に回し、左肘で挟んでロック、即座に首を絞め上げる。
エイミと男には身長、体格差がある。
しかし、相手はまったく鍛えていない、たるんだ身体をしていた。
こちらの鍛え上げた体幹と腕力にかなうはずもない。
男は必死に逃れようとするが、さらに絞め上げてやる。
男を失神させた後、最寄りの交番に突きだした。
スマホ内にはエイミの写真をはじめ、大量の盗撮物があったので、言い逃れはできないだろう。
エイミは、全速力で駆けだした。
交番の外に出たとき。
先の女子高生が、凄まじいスピードで駆けだしたのだ。
まるでロケットエンジンでも積んでいるかのような加速度だ。
女子高生は、あっという間に見えなくなってしまった。
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。
登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。