第3話

第3話 初登校、曲がり角にて
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2023/03/29 23:00
 ラブルは、鈴木エイミとして女子高生になった。
 そして、初めての登校日を迎えた。
鈴木エイミ
鈴木エイミ
(よし、任務開始)
シラーズ
シラーズ
待て、エイミ
パンをくわえなくていいのか?
鈴木エイミ
鈴木エイミ
シラーズ
シラーズ
普通の女子高生はパンをくわえながら登校するんだろ
それで曲がり角でイケメンとぶつかる、と
鈴木エイミ
鈴木エイミ
パンなら──
ノワール
ノワール
いやいや、いつの時代のテンプレよ
それに現実でするわけないでしょ
シラーズ
シラーズ
ハハハ、冗談だよ!
鈴木エイミ
鈴木エイミ
…………
鈴木エイミ
鈴木エイミ
(危なかった……)
 先日、ボスから『ニホンの女子高生について』という資料を渡されていた。
 その中には、『朝はパンをくわえて登校すること』と書いてあったのだ。
鈴木エイミ
鈴木エイミ
(信じて実行するところだった……)
 危うくボスの冗談にはめられ、二人にバカにされるところだった。
鈴木エイミ
鈴木エイミ
(危ない危ない)
(カバンに忍ばせていたパンは、昼に食べることにしよう)
シラーズ
シラーズ
おっと、これを渡しておこう
 シラーズはリップを差しだした。
シラーズ
シラーズ
女子高生に扮するんだから、これくらいはな
鈴木エイミ
鈴木エイミ
(へえ、意外と気が利くじゃない)
シラーズ
シラーズ
これは『リップ型毒針射出装置』だ
鈴木エイミ
鈴木エイミ
──え?
シラーズ
シラーズ
仕込んだ毒針を圧縮した空気で射出する武器だ
俺が培養している毒キノコから抽出した毒を塗り込んであって、中枢神経の麻痺を直ちに引き起こすようにした
簡単にいえば、刺せば数分で失神する
鈴木エイミ
鈴木エイミ
…………
鈴木エイミ
鈴木エイミ
普通の女子高生はこんなの持たないと思うけど
シラーズ
シラーズ
もちろん、リップとしての機能もある
鈴木エイミ
鈴木エイミ
(そういうことじゃないけど……)
(ま、いっか)
鈴木エイミ
鈴木エイミ
ありがとう
 この業界に身を置いていると、いつ何が起こるかわからない。
 武器は常に携帯しておきたいものだ。
 実際、組織の裏切り者がいつ襲ってくるかわからないのだから。
鈴木エイミ
鈴木エイミ
それじゃ、任務に──
ノワール
ノワール
ちょっとちょっと、違うでしょ
エイミは普通の女子高生なんだから
行ってきます、でしょ
鈴木エイミ
鈴木エイミ
…………
鈴木エイミ
鈴木エイミ
行ってきます
 学校に向かう途中。
 エイミは異変に気づいた。
鈴木エイミ
鈴木エイミ
(──尾行されてる)
 家を出てすぐ、何者かの気配がずっとあった。
 つかず離れず、ずっと後をつけられている。
鈴木エイミ
鈴木エイミ
(早速裏切り者が来た?)
 バッグから手鏡を取りだし、化粧を直すフリをし、背後を確認した。
 電信柱の陰には小太りの男がいる。
 スマホを手に持ち、チラチラとこちらを窺っていた。
鈴木エイミ
鈴木エイミ
(組織の人間じゃないな)
 プロではない。
 すぐにわかった。
鈴木エイミ
鈴木エイミ
(じゃあ何者?)
鈴木エイミ
鈴木エイミ
(──ちょっと試してみるか)
鈴木エイミ
鈴木エイミ
あっといけない、落としちゃった
 エイミはわざとスマホを落とし、上体を曲げて拾おうとする。
 同時にさりげなく背後を確認した。

 すると、男はスマホを両手でいじりだした。
 手の動きから、ズーム機能を使っているようだ。
 こちらの無防備な動きにより、あちら側には下着が見えているはず。
 その瞬間を逃すまいと、男は慌ててカメラを操作したのだろう。
鈴木エイミ
鈴木エイミ
(うん、間違いない)
(ただの変質者)
 スマホを拾い、歩きだす。
 角を曲がった後、すぐさま塀を乗り越え、敷地内に入る。
 音を立てないよう、しかし迅速に移動し、再び塀を乗り越えた。
変質者
あれ、いない!?
 驚いている男の背後にそっと降り立つ。
 右腕を男の喉に回し、左肘で挟んでロック、即座に首を絞め上げる。
変質者
ぐ、うっ!?
 エイミと男には身長、体格差がある。
 しかし、相手はまったく鍛えていない、たるんだ身体をしていた。
 こちらの鍛え上げた体幹と腕力にかなうはずもない。
 男は必死に逃れようとするが、さらに絞め上げてやる。
変質者
ひ、ひ、助け……
鈴木エイミ
鈴木エイミ
何をしていた
三秒以内に答えろ
変質者
あ、あ、盗撮、して……
鈴木エイミ
鈴木エイミ
なぜ私を狙った
変質者
そ、その、引っ越してきたときに、たまたま見かけて……
可愛いな、って……
鈴木エイミ
鈴木エイミ
(嘘はついてなさそう)
(やっぱりただの変質者か)
 男を失神させた後、最寄りの交番に突きだした。
 スマホ内にはエイミの写真をはじめ、大量の盗撮物があったので、言い逃れはできないだろう。
鈴木エイミ
鈴木エイミ
(さて、気を取り直して学校に──)
(げ、もう始まっちゃう!)
(初日から遅刻なんて、普通の女子高生っぽくない!)
 エイミは、全速力で駆けだした。
警察官
(まさか痴漢を捕まえてくるなんて)
(最近のJKってすげーな)
警察官
あー、すみません、念のため詳しくお話を──
 交番の外に出たとき。
警察官
なっ……!
 先の女子高生が、凄まじいスピードで駆けだしたのだ。
 まるでロケットエンジンでも積んでいるかのような加速度だ。
警察官
(以前に追いかけた空き巣常習犯より、ずっと速い……!)
 女子高生は、あっという間に見えなくなってしまった。
警察官
…………
警察官
(最近のJKって、普通じゃねーな……)

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