第9話

第9話 アジトでの戦い
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2023/05/10 23:00
 ──リュウジたち半グレのアジト──
チンピラ風の男
へへ、早くやりたいぜ
ガラの悪い男
焦るなって
ここまで連れてくればもう逃げられねえ
 アジトの場所は事前に下調べ済みだ。
 ここは海沿いに林立している工場の一つで、持ち主の会社は二年前に倒産している。
 以後、リュウジらに利用されているのだ。

 エイミは、両手に手錠を掛けられていた。
 両手を上げるような体勢でベッドに寝かされ、手錠自体をベッドの柵に固定される。
リュウジの仲間1
お、新しい子か
めちゃくちゃ可愛いじゃねーか!
さっさとやっちまおうぜ
ガラの悪い男
まあ待て、リュウジさんが戻ってからだ
カメラの準備をしておけ
鈴木エイミ
鈴木エイミ
(そろそろいいかな)
 エイミは奥歯を小刻みに噛みしめる。
 口内には超小型発信器を仕込んでおり、決められたリズムで噛むと、ノワールの持つ受信機に信号を送ることができる。

 まもなく、凄まじい爆発音が外で響いた。
チンピラ風の男
何だっ!?
ガラの悪い男
爆発っ!?
それともサツか!?
リュウジの仲間1
か、確認してきます!
 下見の際に仕掛けた、シラーズ特製の小型爆弾である。
 エイミの飛ばした信号を受け、ノワールが爆発させたのだ。
鈴木エイミ
鈴木エイミ
(発信器で直に爆発させることもできるけど)
(万が一周辺に人がいたら、巻き込まれてしまう)
 だからノワールに信号を送り、安全を確認してから爆破してもらったのだ。 
 そして、その爆発のおかげで、奴らはエイミから離れていった。
鈴木エイミ
鈴木エイミ
(よし、この隙に──)
 髪の毛内に仕込んだ針金を掴み、手錠の鍵穴に差し込む。
 どのような体勢で拘束されてもいいように、身体のあちこちに道具を仕込んでいるのだ。
鈴木エイミ
鈴木エイミ
(拘束を解く訓練も、幼い頃から何度もやらされた)
 身体に染みついている、いわば流れ作業のようなものだ。
 あっという間に手錠を外すことができた。
鈴木エイミ
鈴木エイミ
(男たちは気づいていないね)
 ベッドから下りて、物陰に身を隠す。
 慌ただしくなった倉庫内を静かに移動する。

 やがて、集団から離れた場所で、男がスマホで電話しているのを見つけた。
 エイミはそっと近づく。
リュウジの仲間2
た、大変なんです!
爆発が起きたみたいで、すぐに来──
 背後から男に近づき、左手で口を押さえ、ネイルチップをつけた右手の人差し指を首に刺す。
 男は小さなうめき声を上げ、しばらく暴れた後、意識を失った。
鈴木エイミ
鈴木エイミ
(効果抜群ね)
 シラーズに頼んで、毒を仕込んだネイルチップを作ってもらったのだ。
鈴木エイミ
鈴木エイミ
(あそこにも一人いるけど)
(周囲に物がないから近づくのは難しい)
鈴木エイミ
鈴木エイミ
(それなら)
 シラーズの開発した、リップ型毒針射出装置を試すことにする。
 本体から口紅の部分を取り外すと、小さな銃口が露出する。
 その状態でスティックの底面を押し込むことで、圧縮された空気により毒針を飛ばすことができるのだ。
鈴木エイミ
鈴木エイミ
(射程距離はせいぜい五メートルだったか)
 狙いをつけて、底面を押し込む。
 プシュという小さな音の後、糸のように細い針が射出された。
リュウジの仲間1
ん?
 男は首元に手をやった。
 虫刺され程度の痛みで、かつ混乱した状況のため、さして気にしていないようだ。
 まもなく男は痙攣し始め、失神した。
鈴木エイミ
鈴木エイミ
(中々良い武器ね)
 毒針、毒ネイルを駆使して、倉庫内の男たちを一人、また一人と無力化していく。
 失神した男たちは、目立たないように物陰に隠しておくことも忘れない。
ガラの悪い男
お、おい、女がいないぞ!
鈴木エイミ
鈴木エイミ
(やっと気づいたか)
チンピラ風の男
手錠が外れてる!?
ガラの悪い男
そんなバ──
 もう身を隠す必要もない。
 エイミはガラの悪い男の背後に近づき、絞め技をかけた。
ガラの悪い男
ぐ、ぎぎぎ……
 呼吸ができない間に毒ネイルを刺し、失神させる。
チンピラ風の男
て、てめぇ!
ここにいたぞ!
 チンピラの声は倉庫内に響くが、誰も加勢に来ない。
鈴木エイミ
鈴木エイミ
残念ながら、残りはあんただけ
チンピラ風の男
バ、バカな……
 エイミはすぐさま近づく。
チンピラ風の男
舐めんなよ!
 男は戸惑いつつもパンチをくり出すが、止まって見えるほど遅い。
 その手を掴み、勢いを殺さずに一本背負いをする。
チンピラ風の男
ぐ、あぁ……
 男をうつ伏せにして、片腕を背中のほうへ曲げる。
チンピラ風の男
いててて!
鈴木エイミ
鈴木エイミ
(あんた、さっき胸触ったよね)
 エイミは力を入れ、片腕をへし折ってやった。
 男の絶叫がこだまする。
???
そこまでだ!
こいつがどうなってもいいのか!
 振り返ると、リュウジがいた。
鈴木エイミ
鈴木エイミ
えっ
 リュウジは、姫野ユリと一緒にいた。
 そしてユリの首元にナイフを突きつけている。
姫野ユリ
姫野ユリ
あ、あたし──
あんたを助けようとして……
 それで捕まってしまった、と……。
 面倒なことになってしまった。
鈴木エイミ
鈴木エイミ
(さて、どうするか……)

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