──リュウジたち半グレのアジト──
アジトの場所は事前に下調べ済みだ。
ここは海沿いに林立している工場の一つで、持ち主の会社は二年前に倒産している。
以後、リュウジらに利用されているのだ。
エイミは、両手に手錠を掛けられていた。
両手を上げるような体勢でベッドに寝かされ、手錠自体をベッドの柵に固定される。
エイミは奥歯を小刻みに噛みしめる。
口内には超小型発信器を仕込んでおり、決められたリズムで噛むと、ノワールの持つ受信機に信号を送ることができる。
まもなく、凄まじい爆発音が外で響いた。
下見の際に仕掛けた、シラーズ特製の小型爆弾である。
エイミの飛ばした信号を受け、ノワールが爆発させたのだ。
だからノワールに信号を送り、安全を確認してから爆破してもらったのだ。
そして、その爆発のおかげで、奴らはエイミから離れていった。
髪の毛内に仕込んだ針金を掴み、手錠の鍵穴に差し込む。
どのような体勢で拘束されてもいいように、身体のあちこちに道具を仕込んでいるのだ。
身体に染みついている、いわば流れ作業のようなものだ。
あっという間に手錠を外すことができた。
ベッドから下りて、物陰に身を隠す。
慌ただしくなった倉庫内を静かに移動する。
やがて、集団から離れた場所で、男がスマホで電話しているのを見つけた。
エイミはそっと近づく。
背後から男に近づき、左手で口を押さえ、ネイルチップをつけた右手の人差し指を首に刺す。
男は小さなうめき声を上げ、しばらく暴れた後、意識を失った。
シラーズに頼んで、毒を仕込んだネイルチップを作ってもらったのだ。
シラーズの開発した、リップ型毒針射出装置を試すことにする。
本体から口紅の部分を取り外すと、小さな銃口が露出する。
その状態でスティックの底面を押し込むことで、圧縮された空気により毒針を飛ばすことができるのだ。
狙いをつけて、底面を押し込む。
プシュという小さな音の後、糸のように細い針が射出された。
男は首元に手をやった。
虫刺され程度の痛みで、かつ混乱した状況のため、さして気にしていないようだ。
まもなく男は痙攣し始め、失神した。
毒針、毒ネイルを駆使して、倉庫内の男たちを一人、また一人と無力化していく。
失神した男たちは、目立たないように物陰に隠しておくことも忘れない。
もう身を隠す必要もない。
エイミはガラの悪い男の背後に近づき、絞め技をかけた。
呼吸ができない間に毒ネイルを刺し、失神させる。
チンピラの声は倉庫内に響くが、誰も加勢に来ない。
エイミはすぐさま近づく。
男は戸惑いつつもパンチをくり出すが、止まって見えるほど遅い。
その手を掴み、勢いを殺さずに一本背負いをする。
男をうつ伏せにして、片腕を背中のほうへ曲げる。
エイミは力を入れ、片腕をへし折ってやった。
男の絶叫がこだまする。
振り返ると、リュウジがいた。
リュウジは、姫野ユリと一緒にいた。
そしてユリの首元にナイフを突きつけている。
それで捕まってしまった、と……。
面倒なことになってしまった。
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!
転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。