第4話

第4話 テニス勝負
13,836
2023/04/05 23:00
──M学園高等学校──
鈴木エイミ
鈴木エイミ
すみません、遅れました!
 ドアを開けると、朝のホームルーム中だった。
本宮先生
おお、やっと来たか
初日から遅刻なんて心配したぞ
鈴木エイミ
鈴木エイミ
すみません、実は──
鈴木エイミ
鈴木エイミ
(痴漢を倒して遅れたなんていったら普通じゃないと思われる)
(ここは……)
 ボスに渡された資料の中には、『ニホンのJKの遅刻理由』なるものがあった。
鈴木エイミ
鈴木エイミ
(あれを参考にしよう)
えーと、妊婦さんが苦しんでいたので助けてました
 一瞬、クラス内が静まりかえったが、すぐに笑いが巻き起こる。
女子生徒
イマドキそんな嘘つく子いるんだ
転校生は天然キャラかー
男子生徒
てかめっちゃ可愛い
彼氏いるのかな?
 先生、生徒たちは笑い、盛り上がっている。
鈴木エイミ
鈴木エイミ
(あれ、思ってた反応と違う……)
(またボスに騙された?)
(でも、第一印象としては悪くないか)
鈴木エイミ
鈴木エイミ
鈴木エイミです
これまで海外暮らしでしたが、父の仕事の都合でニホンに来ました
よろしくお願いします
 休み時間。
 湯川サエは教室の端っこで、転校生の鈴木エイミを見ていた。
 エイミの周りにはたくさんの生徒がいて、質問攻めにしている。
湯川サエ
湯川サエ
(帰国子女だもんねー)
(それに可愛い……!)
(クラス内で一番──いや、学校内で一番かも)
(できればお話したいけど……)
湯川サエ
湯川サエ
(あたしみたいなモブじゃ、友だちにはなれないよね)
(それより、ちょっと心配なことが……)
 ちらりと横を見る。
 姫野ユリが、面白くなさそうな表情で頬杖をついていた。
湯川サエ
湯川サエ
(姫野さんはクラスの中心)
(彼女の気分次第でカーストが決まる……)
 入学直後、最初にクラス内で自己紹介があった。
 そのときに目立った女子がいたけど、ユリの癇にさわったらしい。
 裏で「教育」が行われ、その女子は以後、目立たないように振る舞うようになったのだ。
湯川サエ
湯川サエ
(トラブルが起きないといいけど……)
 体育の授業になった。
 今日の授業は、いくつかの球技から一つを選択して練習をするらしい。
鈴木エイミ
鈴木エイミ
(テニスは過去にやったことがある)
 とあるテニスクラブの講師が麻薬取引に関係しているという噂があり、潜入捜査をしたことがあった。
 そのときに基本的なルールや動きは覚えたのだ。
姫野ユリ
姫野ユリ
鈴木さん
鈴木エイミ
鈴木エイミ
あなたは……
姫野ユリ
姫野ユリ
あたしは姫野ユリ
鈴木さんは、テニスの経験ある?
鈴木エイミ
鈴木エイミ
(嘘をつく必要もないかな)
鈴木エイミ
鈴木エイミ
以前に一度だけ
姫野ユリ
姫野ユリ
それなら一緒にやらない?
鈴木エイミ
鈴木エイミ
(転校生の私に気を遣ってくれてるのかな)
(優しい子ね)
姫野ユリ
姫野ユリ
ただやるだけじゃつまらないから
賭けない?
鈴木エイミ
鈴木エイミ
というと?
姫野ユリ
姫野ユリ
1ゲーム勝負で
負けたら勝った方のいうこと、何でも一つ聞くってのはどう?
『何でも』っていう部分が引っかかる。
鈴木エイミ
鈴木エイミ
あなたが勝ったらどうなるの?
 姫野ユリは意地悪な笑みを浮かべた。
姫野ユリ
姫野ユリ
あたしの下僕になりなさい
鈴木エイミ
鈴木エイミ
…………
 優しい子というのは訂正。
 姫野ユリは、どうやら腹黒い子らしい。
湯川サエ
湯川サエ
(姫野さんと鈴木さんが対決!?)
 生徒たちが盛り上がっており、授業そっちのけでテニスコートに集まっていた。
 先生も観客として見ている。
湯川サエ
湯川サエ
(そりゃそうだよね)
(姫野さんと美貌の転校生の対決なんて、絶対見逃せないよ!)
 だけど、気になることがある。
 ゲームに負けた方は、相手の下僕になるらしい。
湯川サエ
湯川サエ
(姫野さんはテニス部で、大会でも結果を残している)
(鈴木さんに勝ち目はないんじゃ……)
姫野ユリ
姫野ユリ
(サーブ権は譲ってあげる)
(さすがにそれくらいのハンデはやらないとね)
姫野ユリ
姫野ユリ
(さっさと終わらせて、クラス内での立場をわからせてやる)
 エイミはボールを放り、ラケットを振り抜いた。
姫野ユリ
姫野ユリ
えっ
 弾丸のようなボールが目の前に着弾し、強烈なバウンドとともに背後に跳んでいった。
女子生徒
す、すごいサーブ!
姫野さんから一本取ったよ
姫野ユリ
姫野ユリ
(な、何今のサーブ!?)
(全然反応できなかった……)
 二本目も強烈なサーブだった。
 何とか打ち返すものの、力負けしてネットに阻まれる。
姫野ユリ
姫野ユリ
(ボールが重い……!)
(こんなサーブ、大会でも受けたことないよ!?)
 30-0(サーティ・ラブ)。
 あと二本取られたら負けとなる。
姫野ユリ
姫野ユリ
(あいつ、本当は経験者なんじゃ……!)
 三本目。
 強烈なサーブではあったが、ネットに阻まれた。
 エイミは立て続けに失敗し、ユリの点数となった。
姫野ユリ
姫野ユリ
(さっきのはまぐれ?)
 次に打ってきたサーブは、スピードはあるものの、打ち返すのは容易だった。
 エイミはこちらの返球に追いつくものの、空振りした。
 これで同点だ。
姫野ユリ
姫野ユリ
(あいつ、今……)
 さらに次のサーブも弱く、打ち返すことはできた。
 何度かラリーが続いた結果、エイミが立て続けにミスをした。

 そして、ユリの勝利がかかったこの場面でも、こちらが打ち返した打球をエイミは空振りした。
 打球には追いついているのに、スイングはまるで素人だった。
 これにより、ユリの勝利となった。
 見物していた生徒たちは大いに盛り上がった。
女子生徒
さすが姫野さん!
男子生徒
最初はどうなるかと思ったけど、やっぱり勝ったかー!
 ユリは肩で息をしながら、舌打ちした。
姫野ユリ
姫野ユリ
(あいつ、手加減しやがった)
姫野ユリ
姫野ユリ
(バカにしやがって……!)
 ただ、最初の約束により、鈴木エイミはユリの下僕となった。
姫野ユリ
姫野ユリ
(あたしを舐めたこと、後悔させてやる……!)

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